城崎温泉西村屋に取材を申し込んだところ「日本人以上に日本人らしいアメリカ人がお出迎えします」と言われました。城崎温泉駅で待ってくれたのはフカイン・コリンさん(38歳)。物腰の柔らかさ、言葉選びの丁寧さ、全てにおいて日本人の美徳を詰め込んだような方という印象。実際、西村屋に来る外国人観光客のアクシデントやハプニングには速やかに対応し、外国人が喜ぶほどの定評があります。
コリンさんはワシントン出身。日本に暮らし始めて10年になります。
「初めて日本に来たときは恥ずかしくて温泉に入ることへの抵抗がありましたが、一度入ってみたら本当に驚きました。それまでシャワーだけで、湯船に浸かることはありませんでしたから、あたたかい温泉に入った時の体がほぐれる感じ、リラックスしました」
その後も日本に興味を抱き、英語教師として日本で働く中で、ご縁もあり城崎温泉西村屋のスタッフとなりました。現在、コリンさんは城崎温泉インバウンド部会のおひとりです。
コリンさんに「外国人から見た城崎の魅力は」と尋ねると、「日本のお客さんがよく言う“懐かしさ”です。それは夜に感じられます」と夜のそぞろ歩きをすすめてくれました。
もちろん城崎と言えば「道は廊下、旅館は客室」と言われる通り、街全体を大きな温泉旅館と考え共栄共存で歩んできた温泉地ですから、街並みの景観は比類をみない美しさがあります。それも灯りがともる頃が最も魅力的であることは言うまでもありません。
しかし、コリンさんのおすすめに従って散策をしてみて改めて気づくことがありました。まず夜がしっとりと暗い。煌々と、明るすぎないのがいい。案内の看板が少ない。まさに昭和時代を彷彿とさせる田舎の街が現存し、継承されています。
「外国人のための外国語表記の看板はむしろ必要最低限でいいと思います。看板が多いと、観光地になってしまうから。私たちは観光地に行きたいのではなく、日本の田舎が見たい、体験したいのです」とコリンさん。
そんな田舎の風景が残る城崎温泉街に、外国人観光客がカメラを首からぶら下げて浴衣姿でそぞろ歩きをしていました。外国人観光客も外湯巡りをしています。ちなみにコリンさんは外湯の「鴻の湯」の広い露天風呂が大好きだそうです。
外国人の気持ちや要望を率直に日本人に伝えてくれるコリンさんのようなスタッフがいたら、どんなに心強いでしょう。日本各地の温泉にコリンさん的存在がいてくれたらと思うほどです。
次回は、城崎温泉のもう1人の外国人スタッフの話です。
(温泉エッセイスト)