急増する富裕層リピーター
今、フィリピン人にとって最も人気のある旅行先の一つは、間違いなく日本である。訪日フィリピン人は2014年のビザ要件緩和以降急増し、17年は42万人、ビザ要件緩和前の12年と比べると、なんと5倍の増加である。東南アジアではタイ、マレーシアに次ぎ3番目に大きな市場となり、GDP成長率6%台を維持する好調な経済が追い風となり、当面この傾向は続くものと見込まれる。
中でも、数次ビザの発給が開始されたことにより、訪日リピーターが増えている。観光庁の17年の訪日外国人の消費動向調査では、訪日フィリピン人の約半数はリピーターという結果が出ている。その背景には、人口の3~5%(300~500万人)を占めると言われている富裕層の存在があるとみている。
フィリピンにおける富裕層は、ビレッジと呼ばれるゲートコミュニティの中の豪邸に住み、運転手付きの高級車や複数のメイドに囲まれた生活を送っている。お金に余裕があり、質の高い、特別な旅行体験を求めている、目の肥えた海外旅行者である彼らが、日本の魅力にひかれ、訪日旅行をリピートし始めているのだ。
問題は、東京・大阪以外の観光魅力に関する情報が不足しており、どこに行ったらよいか分からない、また、訪日旅行需要は高まっているのに、それを摘み取るための体制が十分でない、ということである。ただし、訪日熱が高まり始めたのは、つい4年ほど前のことであり、旅行会社がお客さまから東京・大阪以外のことを聞かれても、知識や経験が追い付かないのが実態であることも無理もないとも言える。
このような状況の中、JNTOは18年10月にマニラ事務所を開設した。最も優先度の高い活動方針は、富裕層リピーターによる地方への訪問拡大である。具体的には、敬虔(けいけん)なカトリック国フィリピンに響くコンテンツである「潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産となった長崎・熊本や、12月に直行便が新規就航した北海道にインフルエンサーを派遣し、SNSで情報を発信する取り組みなどを行っている。
加えて、日頃のコミュニケーションやセミナーなどの機会を通じ、旅行会社に対する地方の情報提供にも力を入れている。フィリピンからは新設の新千歳便のほか、成田、羽田、中部、関西、福岡の各空港との間に直行便が運航されており、いわば日本全国、どの地域にも誘客のチャンスはあると言える。
現状では、顕著な数字の割に、フィリピン市場に取り組む日本のインバウンド関係者はまだ多くはない。だからこそ、ビジネスチャンスがあるとも言え、情熱的なフィリピン人にもっと日本に来てもらうため、情熱をもってJNTOと連携して誘客促進に力を注いでいただける関係者の皆さまの協力をぜひお願いしたい。