【私の視点 観光羅針盤77】女将をユネスコ無形文化遺産に 安田 彰


 和食・和紙に次いで、先日全国33の祭りが「ユネスコ無形文化遺産」に登録された。山車・鉾・屋台が街を練り歩く各地の祭りである。その維持・継承に木工や漆、染織などの伝統工芸が果たしてきた役割は大きい。

 筆者はかねてから観光の三大要素として「食・匠・祭」を考えてきた。この匠のうちにはいわゆる伝統工芸品ばかりではなく、日本文化が培ってきたソフトも入れるべきであろう。その最たるものが旅館や料亭におけるおもてなし、すなわち女将によるよそおい、しつらい、ふるまいの洗練された形である。

 「女将は歩く日本の伝統文化である」――こう喝破したのは本紙の故・江口社長であった。今こそおもてなしのエッセンスともいうべき「女将」を無形文化遺産登録する時ではなかろうか。

 女将は正しくは「お上」であって恐れ多い存在、商家ではお内儀ともいわれる。言葉の本意を考えれば女性の持つ実力がよくわかろう。仮名文字やさまざまな文学に代表される平安時代の女流文化隆盛を持ち出すまでもなく、日本文化は実質女性が支えてきたともいえる。
 政事や公式行事など表向きの男社会は、実は裏方に徹して果実を取ってきた賢い女性たちによって維持管理されてきたのである。

 その洗練と極みの一つが「女将文化」に他あるまい。茶道に発し、華道、香道を身に着け、客人受け入れに当たっての準備・支度、気配り、立居ふるまいに至るまで女将が采配をふるう。その心に届くおもてなしに客人は感動し、感謝の念に打たれる。これがおもてなしの実ではなかろうか。

 ところが、和紙も和食も、海外の高まる関心をよそに肝心の日本人が疎遠になりつつある。女将文化も旅館や料亭離れに伴い「絶滅危惧種」視されかねない状況だ。ユネスコ登録は皮肉なことに、消え去りつつある古き良き文化ばかりということになりかねない。

 旅館とホテルの違いは決定的だ。ホテルは分業体制、マネージャーは全体をマネジメントするだけである。一方、女将は規模にもよるが、基本は家業、自ら花を生け、清掃に気配りし、調理の采配をふるう。旅館のよそおいも、しつらいも、そして従業員のふるまいも女将の人となり次第。旅館とは女将その人に他ならない。

 今や日本を始め世界中で、政界は女性パワー全開の時代である。だからこそ日本の実力や魅力の広範性・多面性・奥深さを知ってもらうべく、類を見ない固有の伝統文化「女将文化」を世界に発信していきたい。

(亜細亜大学教授)

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