【私の視点 観光羅針盤86】インバウンドの驚異的な増加 石森秀三


 2016年の訪日外国人客数は2403万人に達した。日本へのインバウンドは、12年に835万人、13年に1036万人、14年に1341万人、15年に1973万人だったので、まさに驚異的な増加である。私は20数年前に「2010年代のアジアで観光ビッグバン」が生じることを予測したが、日本へのインバウンドがこれほど短期間に驚異的に増加するとは思わなかった。

 16年の国別ベスト5は、(1)中国637万人(2)韓国509万人(3)台湾416万人(4)香港183万人(5)米国124万人―の順で、東アジアからが全体の約73%となっている。

 日本の観光立国は順調に発展しているが、現実には東アジア諸国・地域に大きく依存する歪(いびつ)なかたちで発展している。東南アジア諸国からの訪日客が極めて順調に増加しているが、今後とも東アジアに依存せざるを得ない状況が続くだろう。

 今年は日中国交正常化45周年、来年は日中平和友好条約締結40周年が控えており、日中の双方向での観光交流の拡大、観光サービスの質向上、違法行為の是正などが推進されている。そのため今年も中国からのインバウンドの増加は期待できそうだ。

 一方、韓国では朴大統領の弾劾訴追案が国会で可決され、大統領退陣が予想されている。後任の大統領には反日政策を掲げる政治家が選ばれる可能性が高いために日韓観光交流が停滞する怖れが大いにあり得る。

 台湾の場合には、昨年12月にトランプ次期大統領が蔡総統と電話会談を行い、これまでの米中関係の基本であった「一つの中国」原則に揺さぶりをかけたために波風が立っている。香港の場合にも、香港独立派が勢いを増しており、習主席がいつ人民解放軍に出動を命じるか注目されている。政治的紛争が激化すると外国旅行どころではなくなる。

 米国ではトランプ大統領が就任し、米国第一主義を鮮明に打ち出しているが、大統領就任の翌日に早くも反トランプ「女性大行進」が行われ、大波乱の幕開けになっている。今後の日米、米中、米ロ、米欧、米アジア関係などがいかに変化するのか、非常に予想し難いのが実情だ。

 トランプ政権の経済政策によって外国為替が「ドル安円高」に動くだけでも、日本へのインバウンドに影響が出てくる。国際観光は世界の政治・経済の動き、戦争やテロ、疫病の流行、自然災害などの影響を受けやすい。今年は大波乱の年になるため、観光への吉凶が相半ばしている。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

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