「逆境の時こそ力を」 日本宿泊産業マネジメント技能協会、宿泊業の展望語るオンラインシンポ開催


田川氏

 国家検定試験「ホテル・マネジメント技能検定試験」を運営する日本宿泊産業マネジメント技能協会(JLM、作古貞義理事長)は1月27日、シンポジウム「宿泊産業界の展望~ウィズコロナの経営課題」をオンラインで行った。田川博己(JTB取締役相談役)、林悦男(宿泊施設関連協会会長、タップ会長)、清原當博(ホテルオークラ東京前会長)、積田朋子(観光経済新聞社社長)の4氏が講演。「逆境の時こそ力を尽くす」「今こそおもてなしをゼロベースで考える時だ」と、コロナ禍で宿泊事業者らが取り組むべきことを説いた。

田川JTB相談役らが講演

田川氏

 

 田川氏は国際観光の現状と今後の展望を、データを交えて紹介した。

 観光が世界で約3億3千万人の雇用を生み、GDPの10.3%を占めたものの、コロナ禍で1億9700万人以上の雇用と5.5兆ドル以上の経済効果が失われたと指摘。21年度に1億人の雇用を回復するとしたG20観光大臣会合(昨年10月、サウジアラビア)の決議を紹介した。

 世界経済フォーラムの観光競争力レポート(2019年版)の内容も紹介。それによると、日本は観光分野における国際競争力ランキングでスペイン、フランス、ドイツに次ぐ4位にランクされている。調査は隔年で、日本の順位は09年から25位、22位、14位、9位、4位と上昇。19年は前回調査と同じ順位になった。

 ランキングで日本は、「公衆衛生」「病院ベッド数」「陸上輸送力」など六つの指標で世界1位となっている。田川氏は「日本は世界の中で魅力ある国。自信をもってアピールすべきだ」と説いた。

 コロナ禍で新たな旅の形を構築する必要があるとも指摘。「3密回避の安全・安心のガイドライン策定」「新しい旅をデジタル社会の中で考える」「新しい働き方、休み方」「新しい国際交流の流れを作る」の四つのポイントを述べた。

 その上で必要なこととして、「いつ頃から何をするかというロードマップを作ることが大切。東京オリンピック(五輪)・パラリンピック、北京五輪(22年)、FIFAワールドカップ(W杯)・カタール大会(同)、ラグビーW杯フランス大会(23年)など、国際的なスポーツ大会が目白押しだ。25年には大阪・関西万博がある。日本の魅力を世界に発信できる最大のチャンスだ。今からしっかりと準備をしていかねばならない」と説いた。

 最後に田川氏は、JTBの前身「貴賓会」を作った渋沢栄一の言葉「逆境の時こそ、力を尽くす」を引用。「コロナ禍でわれわれツーリズム産業は逆境にあるが、今こそロードマップを含めてしっかりと、対応を考えていかねばならない。日本に新しい風が吹くような流れをつくっていきたい」と述べた。

 

林氏

 ホテルシステムを開発、提供するタップ会長の林氏は、ホテル業務を細かく分類し、ホテル全体の生産性を高める仕組みを考える「ホテルエンジニア」の育成が必要と説いた。

 「サービスをホスピタリティサービスとテクノロジーサービスの二つに仕分けする。例えば、レストランでお客さまからオーダーを聞く作業をホスピタリティサービス、厨房からテーブルまで料理を運ぶ作業をテクノロジーサービスとし、テクノロジーサービスは機械やITに置き換える。売り上げを上げるとともに作業を効率よく行い、ホテル全体の生産性を上げる」。

 林氏はどこまでをテクノロジーサービスにするか、最適化を考える人材がこれからのホテルに必要と強調した。

 

清原氏

 ホテルオークラ東京の前会長で、現在はJLMの理事を務める清原氏は、高度成長期から現代までのホテル発展の歴史を振り返るとともに、コロナ禍の宿泊施設の稼働状況をデータで解説。アフターコロナに向けたホテル業界の六つの課題を挙げ、解決に向けた提言を行った。

 観光庁のデータでは、昨年10、11月の全国宿泊施設の延べ宿泊者数が前年同月比でそれぞれ35.2%、30.2%の減少。清原氏は、「宿泊部門の売り上げ不調を今までは宴会部門でカバーしてきたが、今は両方が壊滅的な状態」と、厳しい現実を改めて指摘した。

 清原氏は六つの課題として「黒字化と経費削減」「雇用の確保」「従業員モチベーションの維持」「働き方の改革」「IT、AIとの共存」「政府支援の活用」を挙げ、それぞれについて説明。

 さらに清原氏は、「今まで培ってきた日本ならではのおもてなしをこれからも継続させるべきなのか。最悪の状況である今がゼロベースで考えるタイミングだ」と、ホテル業界関係者の新たな思考を促した。

積田氏

 

 観光経済新聞社の積田社長は、コロナ禍での旅館業界の動きについて、Go Toトラベルや自治体による各種キャンペーンにより「バーゲン価格が当たり前になった」状況を危惧。「安さで選ばれる宿ではなく、価値ある宿を目指さなければならない。他館にないサービス、料理、郷土文化を取り込むことが必要だ」と説いた。

 聴講者との質疑応答で積田社長は、コロナ禍の当面、宿泊施設が取り組むべきこととして、「新しい生活様式に対応した食事どころの新設など館内リニューアル、少ない要員で業務を行うオペレーション改革、サービスマニュアルの作成など、お客さまが少ない今だからこそ取り組めることがある」と、本紙先週号の記事を引用して述べた。

作古氏

 シンポジウムは無料で行われ、宿泊事業関係者、研究者、学生ら約120人が聴講した。

 主催者を代表してJLMの作古理事長は、「協会は社会貢献活動の一環として、オンライン講座を今後も無料で行う」と述べた。今後は11月までほぼ毎月、計9回開講。一定数以上受講した人には修了証を授与する。

 
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