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観光業界人インタビュー 第2877号≪2017年1月28日(土)発行≫掲載
存在の基盤は「演奏権」
宿泊業界と一緒に育つ

日本音楽著作権協会(JASRAC)理事長
浅石 道夫氏


──理事長就任に当たり、今後の方針は。

 「現在、音楽著作権管理事業者は複数あり競争状況にあるが、実はJASRACはこれまでずっと、独占で来ていたわけではない。あまり知られていないが、昭和49年12月までの25年間、別の事業者と競合していた時代があった。その時代にJASRACは足腰を鍛えられたと思っている。職員には『今、競合者がいる状況は、もう一度足腰を鍛えなさいと天がJASRACに与えてくれたプレゼントだ』と言っている」

 「競争状況でどんなことが起きたのかということも実経験として分かっているので『これからこういうことが起きるだろう』ということを示すのも私の役割だ。管理事業者がJASRAC一社だった時代は、自分たちだけの規格で権利処理をしていけばよかった。また、デジタル・ネットワーク化が進んで、国内だけではなく、世界といかに向き合っていくのかということが問われる時代になった」

 「今年の抱負は『JASRAC“開国の年”にする』。アジア太平洋諸国の著作権管理団体は(設立から)20年程度。(七十数年の歴史がある)JASRACのような経験がないまま、グーグルやアップルなどの世界規模の事業者を相手にしなければならなくなっている。われわれはカラオケや音楽配信など、技術の発達に合わせて緻密な著作権管理を進めてきた。日本の著作者にアジアで使われた作品の使用料がちゃんと支払われるためにも、JASRACが持っている著作権管理のノウハウをぜひ提供していきたい」

──最も注力すべき業務は。
 
 「音楽著作権団体としての存立基盤は『演奏権』だ。JASRACは足で稼ぐ。飲食店、旅館ホテルの皆さんを含めて、施設内での音楽利用について丁寧に説明し、納得いただいて許諾手続きをしてもらう。お支払いいだいた使用料はきちんと権利者に分配する。何十年何百年たとうと、これがJASRACの『基本中の基本』だ」

──これまでの仕事の思い出は。

 「私は昭和50年から60年、平成に入ったくらいまで、興業を主催する方たちや社交飲食店業の経営者の方々に著作権の仕組みをご説明し、ご契約をいただくという仕事を担当してきた。当時の上司から『浅石、一発ぐらい殴られてこい』と言われていた時代だった。(仕事現場の環境は)今とはまるっきり違う」

 「『JASRACです』と言うと『ジャルパック?』と聞き返されたり(笑)、団体名が知られていなかった。当時の仕事は、JASRACとはどんなところなのか、著作権とはどんなものなのかの説明がまず必要だった」

 「昭和50年代のJASRAC職員は300人ほど。しかし、使用料徴収額は200億円前後だった。今の職員数は500人をちょっと切るくらいで、徴収額は約1100億円という状況なので、格段の違いがある。世間一般に著作権を尊重するという考えが広がってきたということ。(無名だった)当時はJASRACの職員一人一人が広報マンだった。(音楽を使う施設の)経営者と私たちが対峙して、経営者から『JASRACとか著作権とか俺は分からない。お前が言うことを信じるからはんこを押そう』と言われるような時代だった」

──JASRACにとって、旅館ホテルはどのような存在か。

 「旅館ホテルの経営者の皆さまには、著作権について十分認識いただいており、皆さまコンプライアンスについては高い意識をお持ちだ。『優良なご利用者さま』で本当に感謝している。さらに、一つの旅館ホテルが開業されると、そこで音楽を複合的にご利用いただける。このような業界が発展していくなかで、私たちも一緒になって育っていける。これからもいい関係を続けていきたい」

──個人的な音楽との関わりは。

 「高校、大学、社会人とずっと合唱に親しんできた。男声合唱から始めてオーケストラと一緒に第九や宗教曲などを歌っていた。社会人になってからも歌劇団から合唱に人が不足した場合に呼ばれて歌ったり。今は聴く方のみ、演歌からジャズまで。最近では仕事の関連もあり、いろいろなコンサートに行かせていただいている」

──温泉に行くことはあるか。

 「芦屋に住んでいたこともあり、有馬温泉が近く、また日本海側の城崎なども仕事でよく行った。最近は近場が多いが、東日本大震災後は東北に1泊でも2泊でもしようと心がけている。微力だが、現地で食べて飲んでくるのも一つの応援になるだろうと。阪神大震災の時は神戸支部長だった。新潟や東北、熊本の地震は他人事ではない」

──最後に一言。

 「これからも著作権管理を通じて音楽のある生活に貢献できるよう、しっかりと取り組んでいきたい」

【あさいし・みちお】
学習院大経済卒。1975年日本音楽著作権協会に入り、神戸支部長、経理部長、秘書部長、総務本部副本部長を歴任。2007年10月常任理事、12年6月常務理事。16年6月から現職。65歳。東京都出身。

【聞き手・大城登志和】


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