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観光業界人インタビュー 第2907号≪2017年9月9日(土)発行≫掲載

日本観光振興協会
久保田穣副理事長



──改めてお聞きしたいが、DMOとは。

 「一言でいえば、観光地経営組織。一つの組織だけでなく、地域全体で取り組み、高いパフォーマンスを発揮しなければならない。観光はとても裾野の広い産業。観光先進国になるには必要であり、観光業界だけではない、多様な地域の関係者を巻き込んだプラットフォーム組織として求められている」

──日本がモデルにしている欧米のDMOとは。
 
 「欧米は『稼ぐDMO』として結果を出さなければならない。予算をもらってただやりましただけではなく、結果が必要。諸外国では結果を求められ、結果を達成しているから定着している」

──行政、観光協会との違いは。

 「観光協会の多くは稼ぐ組織ではなかった。そこそこの財政基盤があり、人材も2〜3年で人事異動で入れ替わる。稼ぐには観光のスペシャリストが長く担当し、『稼ぐ』というマインドが必要。現状が一概に駄目でなく、現在は150を超える観光庁の日本版DMO候補法人登録制度による候補法人でそれぞれの仕組みができてきている。組織ができれば稼ぐ方法はある」

──DMOには財源が必要。どう確保するのか。

 「日観振では3月にDMO候補法人の現状と課題についてのアンケートを実施した。結果を見ると、財源、人材不足を課題に挙げる回答が多かった。財源は天からは降ってこないので、何かで稼ぐ必要がある。DMO自身で稼ぐのか、あるいは事業者が稼いで一部分を会費などでDMOに回すなどの仕組みを早く作って取り組むべきだ。国の補助金をあてにしていると補助金が切れると何もできなくなってしまう。持続性が不可欠。既存の仕組みを使い地域の観光ビジネスをまとめるだけでも新たなビジネスになる。宣伝も重要で、グローバルに発信しなければならない。例えば、DMOがエリア内の宿泊を取りまとめグローバルOTAを介して世界に販売すれば、アフィリエイトなどの収入がDMOに入る。外国人には多くの情報からの選択の幅が広がり来訪につながる。販売の最前線にこそ利益がある。汗をかいてアフィリエイト収入などを得て、それがDMOの財源へと変わる。『調査をやろう』『マーケティングリサーチをやろう』『多言語化を進めよう』というものも多い。これも重要であるが、調査などで出費するだけでなく、情報や商品などをDMOが媒介となってまとめて売りながら進めるべきだ。出費だけのやり方は財源がなくなるだけだ」

──人材確保や業務効率を高めるには。

 「日観振では、国が開設しこの4月からスタートした『DMOネット』の事務局業務を請け負っている。専門的な知見のある人材やDMOの課題解決、業務効率向上に資する専門業者を『DMOネット』で配信し、ビジネスマッチングに取り組んでいる。観光情報は日本の人には常日頃から届いている。今後は世界への発信が必要。例えば、マーケティングソリューション、グローバルOTAなどDMOの業務に有用な企業や専門人材の紹介など、DMOネットでは細かなところまで支援している」

──DMOに求められる人材とは。

 「DMOには専従のマーケティング人材が必要。日々のデータ整理や地域との折衝を行わなければならない。行政では情報の収集と分析、施策の立案までは可能だが、その後のマーケティング戦略と実行は専門の人材がやるべきだろう。富山県のDMOでは、JTBの現職の社員が出向して取り組んでいる。一般企業のマーケティングに精通した人材が入るのも一つだ。人材がいないなら作ろうという動きもある。群馬県では観光塾を実施し、観光まちづくりを行う人たちがフィールドワークを行い、討論している。全体の底上げにつながるし、将来の人材育成につながる。このほか、地域を知る地方銀行の人に入ってもらい、戦略を立てているDMOも多くある。全国から公募するケースも見られるが、地域にも人材がいるのでもっと掘り起こしてほしい。下呂や阿寒では地域の人材が地域をまとめて成果を出している」

──注目しているDMO候補法人は。

 「福岡県のうきはの里には注目している。DMOが道の駅の運営を受託し、情報発信や観光客の動向を得る基地としている。また、商品を開発し、できたものをインターネットで地域外に売り、財源の確保につながっている」

──DMOが各地で始動して見えてきた課題は。

 「補助金は最初の段階で必要だが、それに頼るだけでは自立できない。これからに期待している」

──DMOを成功させるための秘訣は。

 「足下を固めるためにも、お金が回る仕組み作りをすること。お金が回ると地域の関係者など人が集まり、期待や信頼も高まる。税金を使う場合も、地域や関係者をとりまとめ、方向性の一致が必須だ。動画などお金を使ったプロモーションは、そもそも知名度のない地域では一過性で終わってしまう恐れもある。課題をまとめて整理し、それをベースに地域で戦略を立て、PDCAを回すという基本を忘れてはならない。観光事業者中心にやろうと思わずに、いろいろな人の力を借りて組織を運営しなければならない」

──日観振の今後のDMOへの支援活動は。

 「ビジネスマッチングを進め、成功のためのノウハウや技術力などの構築や人材の育成を支援する。また、DMOネットでの情報発信を強化して観光以外の多くの他産業の登録も増やし、情報交換とリアルなミーティングを実現していく。まだまだビジネスを実現しているDMOは少ない。観光が基幹産業となるためにはDMOの成功は不可欠だ」

【くぼた・みのる】
東大卒。1979年国鉄入社。87年にJR東日本に移行、2009年執行役員長野支社長に就任後、長野県の観光による地域活性化を推進する。11年にジェイティービー常務取締役に就任、地域交流ビジネスを担当、16年6月から現職。

【聞き手・長木利通】


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