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観光業界人インタビュー 第2909号≪2017年9月23日(土)発行≫掲載
静岡ツーリズムビューロー統括責任者
府川 尚弘氏
──静岡ツーリズムビューロー(TSJ)立ち上げの背景は。
「人口減少、少子高齢化が進み、地域を活性化させるには、観光により旺盛なインバウンド需要を取り込む必要がある。2014年から15年にかけ、静岡県の外国人延べ宿泊数は増えているが、東京—大阪間の通過点でなく、旅行の目的地として県に滞在してもらうには、戦略立案と実践が必要。そこで県は、職員はマーケティングの知識や経験が乏しいことから、外部から専門の人材を招き、これまで県域で事業を行ってきた静岡県観光協会のインバウンド部門を強化し、DMOを設置して当たることが最も効果的だと考えた」
──TSJの活動の方向性は。
「地域は売るものを決めて商品企画し、県など広域的な団体は組織が稼ぐ考え方を捨て、企画や販路拡大などマーケティングに徹すること。互いに役割を決めて動かすことで、旅行者が地域と県で回り、PDCAが成り立つ。日本版DMO『稼ぐ観光』は市町村単位の地域DMOに当てはまり、県域では地域が売るものを決めたり、地域を絞ったりすることはできない。TSJは稼ぐことより、マーケティングに徹する組織だと伝えて理解をもらっている。どれだけ人を呼んで、それを地域に流せるか。TSJは地域の魅力を売るための宣伝や販路などの武器づくりに徹する。稼ぐことを目的としたDMOの呪縛で悩まず、組織の理念に基づき行動し、役割を明確にして、正しい理解とパートナーシップのもと、関係者とともに取り組むべきだ」
──組織の目標は。
「県は『住んでよし訪れてよし』を実感できる地域として、観光事業者だけでなく、地域全体や県を訪れる人が幸せになる『こころの豊かさ』を実現することを目指す。TSJは、戦略的なマーケティングとマネジメントによる観光地域のパートナーシップづくりを行うことで、地域の稼ぐ力を向上させ、地域住民の所得や雇用の増加など『経済的な豊かさ』を“かじ取り役”として実現する」
──当面の取り組みは。
「現在、オーストラリアのメディアと20の市町などと一緒に、料理番組で静岡の体験などを売り出す企画を展開している。ほか、地域と連携して伊豆の霊場巡りや箱根旧街道を商品化する作業などに取り組み始めている。私が在籍していたJNTO(日本政府観光局)での経験や人脈も生かし、ラグビーワールドカップ2019などイベントを活用した海外メディアの誘致や海外向けのコンテンツの準備、それに協力するパートナー作りなどを行う。訪日外国人旅行者を効果的に取り込み、魅力を知ってもらうことで、イベント終了後も来訪者の増加に取り組んでいく」
──TSJを進める中で見えた課題や問題点は。
「インバウンドを進めるにあたり、地域や住民の理解と関与が足りない。外国からの旅行者を迎えるには、受け入れ側の内面などに不安がある。県は、地域や住民をまとめる組織として、外国人への対応や進む方向性を決める。地域と県のパートナーシップを取りまとめ、総合力を高める必要がある。そのためにも、海外での先進事例を知り、良いところを学ばなければならない」
──TSJが成り立っていくために必要なことは。
「県内の市町や協会、団体の渉外係として、現在足らない部分に対しては、提案と理解が必要だ。関係者との関係を築くためにも、成功事例を生み出す共創マーケティングが鍵となる。地域の関係者とパートナーシップを構築しつつ、商品開発やプロモーションなどを効果的に進めなければならない」
──TSJでは「心の開国」を理念にしているが。
「地域や関係者と共に進むためには理念が必要。TSJでは、地域の魅力と誇りを静岡全体で伝える『心の開国』を理念に、外国人旅行者への対応やマーケティングのあり方を伝えている。理念の共有や事業の理解を深めることで、お互いの関係の基礎が築ける。静岡には訪日客の5%しか来ていない。今ある自然など静岡の豊かさを売りに『心の開国』を県域に広げて、お客さま目線でもてなしができる旅行地にしたい。また、人口減少となる20〜30年後の子どもたちが外国人と『こんにちは』と日常で対等に向き合える環境が築ければと思っている」
──中長期の予定は。
「今は挑戦の連続だが、県内の特徴や市場を分類し、市場価値を定めた上で海外に売り込むとともに、地域との共同事業も手掛けていく」
【ふかわ・なおひろ】
大学で観光学を専攻。1994年からJNTOで訪日外国人マーケティングなどを担当。退職後、マイルポストで国際観光マーケティングなどの実践を重ね、17年1月から現職。
【聞き手・長木利通】
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