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観光業界人インタビュー 第2911号≪2017年10月14日(土)発行≫掲載
JTB日本版DMOサポート室室長
山下真輝氏
──JTBのDMOへの取り組みのきっかけは。
「JTBは2006年に分社化して、新しい事業として地域交流プロジェクトが進み、観光庁ができる前から地域の国際交流の手伝いをしてきた。観光振興というテーマでプロモーションやイベントを実施したが、単年で終わることが多く、われわれとしては専門性の高い人が長く携わる必要があると考えていた。JTBは田川博己会長をはじめ、政府にDMOの必要性を伝えてきた。私も10年以上この分野に携わり、現在でも自治体における観光人材の育成プログラム支援や基礎調査、データ分析、観光振興計画策定に向けたアドバイスなどを行いながら、JTBとして観光振興へのトータルのお手伝いをしている」
──DMOへの取り組みは。
「DMO形成に向けた基礎調査、戦略策定に向けた支援を行いながらも、国内外を需要喚起する商品開発やスタンプラリーなど、周遊の仕組みづくりなどを行っている。地域内の酒蔵を巡るスタンプラリー『パ酒ポート』による周遊の仕組みづくりや長野県阿智村での星空ナイトツアーのような地域資源を活用した着地型商品の展開、マラソンやサイクリングなどの市民参加型スポーツイベントなどは需要喚起や観光消費額の拡大につながっている。また、受託事業によりトータルで地域をプランニングして運営するものも数多くある。最近は、オンライン周りのマーケティング支援も積極的に取り組んでおり、実際にDMOとして商品を販売して収益を生み、かつデータを収集することを提案している。例えば、DMOのホームページへの予約機能の搭載が、体験型プランや商品を販売するためには必要だ。このほか、アクティビティなどの素材をインターネットから掘り起こし、どうしたら若い人に売れるのか、見てもらえるホームページになるかなども研究している。ICTも積極的に取り入れ、観光客誘致における地域のマネジメントと地域の課題の解決に取り組んでいる」
──DMOの課題や問題点は。
「JTBは海外の先進事例を多く見ている。欧米型DMOを運営のモデルケースとしている。まず、どういったマーケティング、マネジメントを行うかを明確にする必要がある。これは観光行政の改革の話でもある。簡単に言えば、行政主体の観光政策から民間主体に変えようという話。行政がすることと民間がすることを分けることが必要だ。行政は規制緩和や他産業との連携、ハード整備などを中心に行い、プロモーションやマーケティングはDMOに委ねなければならない。今は、動画の配信など宣伝プロモーションに力を入れる自治体も多いが、宣伝プロモーションをするだけでなく、マーケティングのあり方やDMOの組織を今後どうするかを立ち止まって、長期的な視点で議論してほしい。JTBも観光振興に多く関わる中で、現状と課題は把握している。必要な考え方を地域にアドバイスし、DMO形成を支援していきたい」
──財源の確保や人材不足の問題が多く言われているが。
「財源は、これまでの通りの一般財源からの捻出には限界があるが、観光振興の地域における経済効果・雇用効果を明確に示して、観光振興にしっかり予算を組んでほしい。宿泊税などの来訪者負担のあり方なども議論の機運が高まってきた。来訪者へのサービスの提供による収益も検討しなくてはならない。パートナー事業者や他自治体へのコンサルティングによる報酬も可能性がある。これからは地域住民の税金のみでプロモーションする時代ではない。人材は、腰を据えて携わる専門人材が必要。観光振興は専門性が高く、腰を据えてやらなければならない。2〜3年で代わる行政の人ができる分野ではなくなってきた。確かに、観光を広く深く考えられる人材は少ない。デジタルマーケティング以外に、閑散期・平日対策、MICEなども分からなければならない。バランス良く理解して、組織をマネジメントし、行政のシステムも理解できる人材をどう育てていくかが鍵となる。JTBでは、全国に約200人が自治体、観光協会などに出向している。地域の観光振興に携わるDMP(デスティネーション・マネジメント・プロデューサー)も約500人いる。また、社員教育として各種研修や47都道府県の支店長とグループ本社役員によるDMCミーティングや専門的にDMOを学ぶ1泊2日の研修会を実施している。社員も地域の人も育成しながらDMO運営のお手伝いをしていく」
──今後、DMOが成り立つために行うべきことは。
「組織論の前に、まずは観光振興によって目指す地域の姿の議論が必要。その上でDMOという専門性を持った組織形成が重要という理解のもと行政とDMOの役割分担の明確化が必要。観光行政の在り方を話し合ってほしい。DMOの手引きには地域で稼ぎ、税収を増やしなさいとある。地域全体で稼ぐことを地域経営の上位概念として捉え、政策議論を行わなければならない。DMOは一過性のものではない。地域を活性化するために必要な組織。観光振興、交流人口拡大は重要なテーマとなっている。首長が引っ張り、気運が高まっても、知識不足で進まないこともあるだろう。しっかり長期的な視野で議論をしながら進めてほしい」
──JTBのDMOに対する今後の取り組みは。
「JTBグループだけでは完結しない。協定旅館ホテル連盟や企業、地域と連携し、グループ内のリソースだけでなく、観光業以外のパートナーも増やし、新しいソリューションを作っていく」
──DMOの活動のゴールは。
「観光振興の最大のゴールは、観光業が栄え、各地域に雇用が生まれること。そのためにも地域と一緒に新しい価値を生み出し、需要喚起していき、DMOとともに新たなビジネスモデルを構築したい」
【やました・まさき】
福岡大卒。1993年ジェイティービー入社。大分支店、九州本社地域活性化事業推進室長を経て現職。
【聞き手・長木利通】
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