文化や環境と調和、地域貢献へ
9月21日に東京都内で開かれた旅行博、ツーリズムEXPOジャパンの「アジア・ツーリズム・ビジネス・リーダーズ・フォーラム」で、持続可能な観光の在り方についてアジアの有識者が議論した。観光客の過剰な受け入れが地域に悪影響を及ぼすオーバーツーリズム、観光ビジネスを通じた地域社会の成長などが論点。経済発展にとどまらず、生活や文化、環境と調和した持続可能な成長に向けた観光振興のビジョン、指標の必要性などが提言された。
和歌山大学特別主幹教授、英国サリー大学文学部・人文学部学部長のグレアム・ミラー氏は、オーバーツーリズムに伴い世界各地で観光施策や観光産業への批判が起きていることを報告し、「観光で何を実現するのか、地域にとって何が重要か、ビジョンがないことが問題。経済的なインパクトだけでなく、社会、文化へのインパクトを考えるべき」と指摘した。
ビジョンの策定、達成への施策の実施に当たってミラー氏は「重視する指標を設定して持続可能性を測定する必要がある。必ずしも観光客数、消費額が重要ではない。例えば、住民生活の質、若者の雇用という指標もあり得る」と述べた。観光従事者の男女比率、観光客の水使用量など、欧州の観光産業で利用されている持続可能性の指標などを紹介した。
ディスカッションでは、京都市の門川大作市長が、観光客の特定地域への集中に対し、季節、時間帯、場所の分散化への市の取り組みを報告。交通量やゴミ排出量、エネルギー消費などの指標を把握しながら、宿泊税による財源の活用を含め、市民生活と観光との調和を重視している姿勢を強調した。
観光客の集中緩和では、西日本鉄道自動車事業本部の安田堅太郎営業企画部長が、九州・下関エリアの高速バス、路線バス、船舶が乗り放題となる「SUNQパス」を紹介。外国人を含めて地方に向かう路線に多く利用されており、「一極集中ではない九州全体の観光の持続的な成長に貢献する」と説明した。
地域社会の持続的な発展を支える観光ビジネスの在り方では、マレーシア観光芸術文化省のダトゥ・ラシディ・ハスブラ事務次官が、マレーシアのホームステイプログラム制度を説明した。1995年から地方開発省と連携して開始。国に登録した地方の農村の伝統的な家屋などに都市住民や外国人を受け入れ、地域独自の生活や産業、文化などを体験してもらう。
ホームステイプログラムの狙いや成果についてハスブラ事務次官は「観光客の受け入れによって村民の所得が増え、ユニークな体験の整備が地域の伝統や環境の保全にもつながっている。若い人が都市に流出することなく、地元に残ることができる」と語った。
また、インドからはグローバル・ヒマラヤ・エクスペディション創設者兼CEOのパラス・ルーンバ氏が、観光プログラムを通じて地域のインフラ整備に貢献する試みを紹介。「世界にはもっと基本的な問題を抱えている地域がある。当社では、観光客の受け入れによって山岳地帯の集落の電化を支援するプログラムを展開している。観光には開発の力がある」と語った。
アジアの有識者が持続可能な観光などについて意見交換した