6事業の選択と集中、キャンペーンの成功も 近畿日本ツーリスト 執行役員事業推進本部長 阿比留真二氏に聞く


近畿日本ツーリスト 執行役員事業推進本部長 阿比留真二氏

――今の旅行市場をどう捉えているか。

 「環境が好転しているのは感じる。われわれが団体の基盤としている教育旅行が堅調に推移し、加えてインバウンド需要も盛り上がりをみせ、国内個人客の動きも戻りつつある。株高と高水準の賃上げによる後押しもあり、一般消費者の心理は旅行に向かっていると思う。インバウンドについては、地方空港で国際定期便の復活も出てきており、期待は大きい」

 「また、インバウンド事業については、G7広島サミット関連事業、世界水泳福岡大会、各地のマラソン大会などの国際イベントにおいても輸送など関連事業者やメインパートナーとして積極的に関与し、運営に貢献できたのではと思う」

 「宿泊費や交通費、食事代を含む旅行単価の高騰についても、原価高騰により旅行単価をアップはせざるを得ない環境であり、世界水準との比較を含めて消費者の理解が進むだろう。単価アップが見込める」

 ――懸念材料を挙げるとすれば。

 「どの業界も共通だが、人手不足の深刻化、オーバーツーリズムによるエリア満足度の低下、交通機関・宿泊施設の予約困難などが挙げられる」

 ――消費者の意識も変わってきたのだろうか。

 「団体で動くよりも個人・小人数で旅をするスタイルが主流になり、予約もウェブシフトが加速されたと感じる。団体は教育旅行や宗教関係、スポーツイベントなどがあるが、幸い、当社はこの方面に強いので、引き続き取り扱いを増やすよう取り組んでいく」

 ――事業推進本部の事業展開は。

 「国内旅行、国内仕入、関連事業、IT企画、営業企画、販売管理・デジタルマーケティング、貸切バス手配管理センターの七つがある。北日本、東日本、コーポレートビジネス、中日本、西日本という五つの支社があり、そこと連携し、販売の推進役と横串の役目を担っている」

 「国内旅行、国内仕入はKNT-CTパートナーズ会(KCP会)と非常に近い関係があり、会員さまをはじめとする全国の関係協力機関の皆さんとの関係性強化のための施策や発信も本部の役目となる。あわせてコンプライアンスのための内部統制の強化やIT推進、働き方改革のためのDX推進など、幅広い展開を行っている」

 ――スタッフは。

 「男性27人、女性11人の計38人。業務内容からみても妥当な人数だと思う」

 ――2023年度の実績は。

 「見込みだが、対予算で販売高はほぼ目標通りだ。事業別では訪日旅行、公務受託、個人旅行が予算を上回っているが、一般団体、教育旅行は届かなかった。コロナ関連のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)については継続案件があったことは大きかった。ただ、これからこの部分はなくなるので、どうカバーしていくかが大きな問題だ」

 「そういう中で昨年、近畿日本ツーリストコーポレートビジネス(CB)の団体旅行事業が統合された。両社のノウハウとネットワークを融合してこの分野を強化し、海外の見本市やマラソンなどのスポーツの日本開催の世界大会、各種イベントを狙っていく」

 ――24年度の展開は。

 「法人MICE、教育旅行、公務・地域共創、スポーツ・ウエルネス、グローバル、リテール・提携販売を中心とした個人旅行―の6事業の選択と集中を基本方針に事業を展開していく。このほか、(1)クラブツーリズムをはじめとするグループ会社やKCP会、旅丸会とのさらなる連携(2)各支社の有する販売手法と情報共有により中核都市部の新規開拓の推進(3)先行契約、DX推進、コスト構造改革を進め、収益性と生産性を向上させる―などを方針として示している」

 「例えば、法人MICEについては、顧客の課題解決や社会貢献につながる提案力を磨き、企業受託の取り扱い強化や新規市場の開拓を行う。また、公務BPO事業の市場開拓も進め、公務代行、施設運営、社会インフラの3本柱に集中する」

――教育旅行については。

 「先行契約の強化を掲げ、収益性の高い市場、地域に人的資源を集中。販促強化支店・ターゲット校を定め、修学旅行外を含めアプローチする。また、全国着地型ECCの販売強化や探求学習をテーマに、自治体さまとの連携も強める」

――KCP会などとの連携強化については。

 「仕入れと連動した訪日オンライン宿泊システムによる宿泊増売、4~9月の九州沖縄キャンペーン、10~3月の北海道キャンペーン、そして秋口の貸し切りバス確保などに取り組む」

 ――KCP会は事業推進本部にとってどんな存在か。

 「堀会長が常々おっしゃっている通り『共生・共創』の関係にあり、一緒になって地域を盛り上げていくのが使命だ。新型コロナ禍の3年間は思うような送客ができなかった。その反省に立ち、もう一度、関係を強化すべく、できることからやっていく」

 「KCP会の協力をいただきながら、商談会や社員の現地研修を積極的に実施しており、会員施設とのつながりと歴史を感じて、絆を深め、ウィンウィンの関係を築く。会員施設向けの傾斜販売の取り組みも行っている」

 「そのために、当社の強みである団体営業による地方開催の大会やMICE事業、インバウンド販売強化により地域への送客拡大を行っていく」

 ――その具体的な取り組みがキャンペーンか。

 「『とびだせ いざ!にっぽん旅』と題したキャンペーンで、上期に九州・沖縄、下期に北海道を対象にクラブツーリズム、ブループラネットと連携し、展開する。前回の全国キャンペーンはコロナ禍により、皆さんの期待に応えられたとは言い難い。今回は不退転の覚悟で取り組み、KCP会に恩返しをしたい」

 ――KCP会への期待は。

 「経営の効率化に取り組み、地域社員が減っているが、密な関係性が大切であり、心の支えになっていただきたい。また、会員の皆さんは地域の名士であり、地域の観光業界をけん引するお立場にある。当社と地域との橋渡しをお願いするとともに、商品造成にあたっては皆さんがお持ちの情報の提供が欠かせない。積極的に地域の新しいコンテンツやアイデアなどの情報のキャッチボールをさせていただきたい」

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近畿日本ツーリスト 執行役員事業推進本部長 阿比留真二氏

【聞き手・観光経済新聞論説委員 内井高広】

 
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