観光経済新聞社が加盟する日本専門新聞協会が10月17日に開いた「第77回新聞週間 日本専門新聞大会フェスティバル」で時局講演会が行われ、慶応義塾大学経済学部教授・小林慶一郎氏が登壇した。「日本経済の展望と課題」と題し、日本経済のこれまでの歩みと今後の経済政策に対する考え方をさまざまな論文や研究内容を引用しながら紹介した。
小林氏は冒頭、過去30年間の日本経済の流れを振り返った。少子高齢化に伴う労働人口の変化や、90年代から顕著になった非正規雇用の増加による人的資源の劣化(スキル低下)と格差の拡大、2000年代初頭まで続いた企業の過剰債務による分業構造の萎縮などを挙げ、日本全体で生産性が低下したことを説明。
これに加え、長きにわたる低金利政策と社会保障費増大などによる財政悪化などが経済状況を悪くしているとし、将来不安や格差拡大により家計の消費力が低下する状態は今後もしばらく続くとの見方を示した。経済成長だけでは財政健全化が難しい現状を踏まえ、高齢者の医療費負担の増加や消費増税といった大規模な財政改革に期待するほかないとの見方を示した。
小林氏は次に、日銀が景気の刺激を目的に実施してきた長期的な低金利政策について説明。当初見られた企業の設備投資も、低金利政策が長期化することによって徐々に減退していく傾向が見られ、現代の日本には現状維持やリスク回避的な「ゾンビ企業」が増加していると説明した。それに加え、最新技術だけで担保を持たないスタートアップ企業などは銀行の信頼を得ることが難しく、土地などの固定費上昇も相まって借り入れが厳しくなり、経済成長が低下する現象が起こっていると総括した。
以上を踏まえ、持続可能な財政健全化を行っていくアプローチとして、多くのOECD加盟国で設立されている独立財政機関を日本も設立し、将来の数十年にわたる長期的な財政の見通し推計とその開示、およびそれらの持続性評価を行っていく必要性を指摘した。
小林氏は加えて、長期的な経済運営のヒントとなる「フューチャーデザイン」を紹介。「フューチャーデザイン」は、現代の世代が払ったコスト(開発などに伴う環境破壊など)で発生するリターン(安定した経済環境)は数十年後の将来世代が得るという思想に基づき、問題を先送りにするのではなく、将来世代のリターンを念頭に置くことで現在の意思決定が変わるという仮説。この考えを適用して黒字状態における水道料金の値上げに踏み切った岩手県矢巾町の事例を紹介し、将来世代の視点から現代の経済政策を検討することも有用だと説明した。「世代間を通した問題解決においては、どうしてもわれわれ世代の利害だけが優先されてしまう。将来世代のために財政を運営しなければいけない中、それにコミットするための工夫が現代の政治には足りていない。それをどうしていくのかがこれからの課題だ」と総括した。
小林慶一郎氏