新政権で国土交通大臣に就任した前原誠司国交相は、9月17日の就任会見で、政策の柱として日本の成長分野である観光振興に注力する考えを示し、「観光立国をさらに推進する」と表明した。前原氏は、松下電器産業(現パナソニック)の創業者、松下幸之助氏が設立した松下政経塾の出身で、松下氏が「観光立国」を提唱したことにも会見の中で触れ、観光立国実現への思い入れを語った。政治主導を掲げる政権下でどのように観光政策を具体化していくのか、その手腕が注目を集めそうだ。
9月16日、鳩山内閣が発足し、国交相として前原氏が入閣した。内閣府特命担当相の沖縄・北方対策担当相、防災担当相を兼務。鳩山首相からは、沖縄・北方対策、防災分野を含め6項目の取り組み指示があったとされる。国土交通分野では高速道路の無料化、公共事業の見直しに加え、「地域を主役とした観光立国の推進」が含まれ、観光政策が重視されている。
前原国交相には、小泉内閣の石原伸晃国交相以降、6人の国交相に任命されてきた「観光立国担当相」の職名は示されていないが、もとより内閣府特命担当相のような法定の呼称でない上、首相からも観光立国政策に指示があることから、必要に応じて観光立国担当相を名乗ることもあり得るとの見方もある。
前原国交相は、17日未明の首相官邸、17日午後の国交省それぞれの就任記者会見で重ねて観光振興への意欲を示した。国交省で行われた一般紙、専門紙合同の記者会見では、冒頭の抱負の中で、公共事業の見直しに関する考え方を説明した後に、「公共工事の問題だけでなく、社会資本の整備、公共交通の推進などが国交省の大きな役割。そういう意味で力を入れていきたいのは観光だ。観光立国のさらなる推進を図っていかなくてはいけない」と述べた。
記者会見では、八ッ場ダムの建設見直しや日本航空の経営再建、高速道路の無料化など、社会の関心が高い問題に報道機関の質問が集中。課題が山積する中で、前原国交相は、少子高齢化、人口減少が進む日本の成長戦略として観光に着目しており、航空政策などにも観光立国の推進を念頭に取り組む姿勢のようだ。
前原国交相は「観光をはじめ、日本の成長を促すための政策、空港や港湾などの競争力の強化を図る必要がある。見直すべきところはしっかり見直し、伸ばせるところはしっかり伸ばすことが大事な観点だ。日本経済への寄与、貢献のために努力したい」と語った。
観光立国の実現に対する意欲が、予算編成や今後打ち出す各種施策にどのように具体化されるかが注目。日本の観光が、外国人旅行者2千万人という新しい目標を見据える中で、観光政策のさらなる強化が期待される。
「松下幸之助さんの思いを体現したい」
前原国交相は、政界に多くの人材を輩出してきた松下政経塾の出身だ。国交省での会見では、松下氏の提唱した「観光立国」への思い入れを自ら披露する場面もあった。
「私の知る限り『観光立国』という言葉を初めて使ったのは、松下幸之助さんではないかと思う」と述べ、「松下政経塾で学んだ者の1人として、幸之助さんの観光立国への思いを体現すると同時に、日本にとっての成長分野である観光を推進したい」と力を込めた。
前原 誠司氏(まえはら・せいじ)
民主党。衆議院・京都2区、当選6回。京都市左京区生まれ。京都大学法学部政治学科卒。京都府議を経て、1993年7月、衆院選に初当選。2001年9月に民主党幹事長、05年9月に党代表、07年8月から党副代表。47歳。
会見する前原国交相(17)日