先月、「NHKスペシャル」と「日曜討論」の二つの番組が連動して、観光をテーマに取り上げました。常日ごろ、マスメディアが報道する「オーバーツーリズムが悪」という一辺倒ではありませんでした。日本の未来は観光が支え、観光の課題は地域特有の資源を生かした地域づくりであることを全面に打ち出し、地域を支える方をクローズアップしていました。
個人的に心に残ったのは、「日曜討論」にご出演された観光庁の髙橋一郎前長官がユニバーサルツーリズム(以下、UT)に言及されたことです。インバウンド消費も上がっているが、一方で、国内消費も軽視してはいけない。高齢者、身体の不自由な方、全ての方が旅を楽しめるようにしたい、といった髙橋前長官のお話には胸を熱くし聞き入りました。令和6年の国の方向性として、「持続可能な観光地づくり」「地域を中心としたインバウンド誘客」「国内交流拡大」が三つの柱に掲げられ、「国内交流拡大」の中にUTに関する記述もありますから、国もUTを重視しています。
先日、UTに長く取り組んでこられた方々と会合がありました。バリアフリー観光のツアーを造成し、現在は地域のUTの受け入れ整備に尽力するオフィスフチの渕山知弘さん(元近畿日本ツーリスト)。ユニバーサルツーリズム総合研究所&静岡ユニバーサルツーリズムセンター代表の長橋正巳さん(元近畿日本ツーリスト)。ユニバーサルツーリズム総合研究所の室井孝王さん(元ANAセールス)。NPO法人高齢者・障がい者の旅をサポートする会の理事の薄井貴之さん(元HISユニバーサルツーリズムデスク所長)。諏訪地方のUTリーダーであり、「ユニバーサルサポートすわ」の牛山玲子さん。以上の皆さんが参加されました。
渕山さんは「今や、旅行会社がUTのツアーを造成するより、地域のDMOや観光協会、地域に密着した旅行会社が既存の着型ツアーにUTの視点を入れることが大切」というお考え。
長橋さんと室井さんは、UTの必要性を一般の方に広く認識してもらうために、多数のイベントを開催。また月に一度「UTおもてなし研修」を行い、多くの方が外出を楽しめるような町歩きガイドを育成しています。長橋さんの「UTはマニュアル通りにはいかない。人によって求めることが異なるし、適材適所のサービスが必要。だから、UTの専門家集団を組織し、困った時に気軽に相談できる体制を作らねば」というご意見。
牛山さんは通常、福祉事業者として入浴介助などもしていますが、昨年度の観光庁補助事業を利用し「ユニバーサルウエディング」を実施。車いすユーザーの「和装で式を挙げたい」という願いをかなえ、諏訪神社での結婚式を執り行いました。
異なる立場の同志が議論すると、互いの知見を共有でき、刺激と学びとなるのです。
最後に私見ではありますが、UTに取り組む際の心得を列記します。
その1 必ず利用者をイメージする。こうしたらいいだろうと勝手な想像でサービスはしない。当事者の言葉に耳を傾ける。
その2 画一的なサービスは通用しない。身体の状態によって受けたいサービスや必要な備品が異なるため、最も重要なのは対応力。そのために経験を積むこと。
その3 お客さんとのコミュニケーションは丁寧に。もしトラブルが起きた場合は、双方のコミュニケーション不足がほぼ最大の要因。
超高齢化社会へ加速しているからこそ、UTへ理解が深まることを祈ります。
(温泉エッセイスト)