【ちょっとよろしいですか 145】宿泊施設は「地域のショールーム」であってほしい 山崎まゆみ


 新潟県の旬の魅力を発信することを目的とした催し「新潟プレミアサロン」(2019年3月開始)は、はや34回を数えました。当初は「表参道・新潟館ネスパス」で実施していましたが、新潟県の情報発信館の移転に伴い、今年6月からは「銀座・新潟情報館 THE NIIGATA」で定期的に開催しています。花角知事も毎回ご参加されています。

 その都度テーマを設けており、第34回は新潟県の燕市・三条市エリアにスポットを当てた「世界に誇る、燕三条のものづくり」でした。ご講演は、株式会社MGNET代表取締役の武田修美さんが、「国際産業観光都市を目指した燕三条ファクトリーズ~地域発展に不可欠な切磋琢磨と新陳代謝~」と題してお話しされました。

 武田さんは、工場の好循環を生み出すための環境づくりをしてきたとおっしゃいます。約600年にわたって金属加工などのものづくりが発展してきた燕三条は、3千あまりのものづくり企業があるといわれています。これら工場(こうば)が密集する燕三条が注目される大きなきっかけとなった「工場(こうば)の祭典」の立役者が、武田さんです。産業観光が定着する現在に至るまで、そして燕三条から世界へと道筋をつけてこられた方です。

 ご存じの方も多いかと思いますが、「工場の祭典」は、普段は見ることができないものづくりの現場を開放し、見学・体験できる機会を設けるオープンファクトリーのイベントで、「燕三条は工場で、人をつなげる」をコンセプトに、2013年から開始しました。家族で営む小さな工場から、100人規模の従業員を抱える工場まで参加。包丁や鎚起(ついき)カトラリーなど、誰もが興味を持ちやすい食に関する物品の製造工場が多いことも、見学者が広がりやすい要因だったのでしょう。これで一気に、産業観光が認識され、各地でも意識していく流れができたのです。

 新潟県三条地域振興局からも、地場産業集積地・県央の高度熟練技能者を認定する制度「にいがた県央マイスター」の取り組みについて紹介がありました。地場産業が集積したこの地域ならではの技術や技能は、熟練技能者たちが継承してきたのです。

 第34回のプレミアサロンでは、MGNETさんの製品や諏訪田製作所の精工な爪切り、山谷産業のキャンプ道具、一菱金属、タダフサ、ツボエの見事な商品が展示されました。私の感覚ではありますが、今回のプレミアサロンは参加者の滞在時間が長かったようです。それはひとえに武田さんの講演が分かりやすく素晴らしかったことに加え、触れられるモノがあったからです。

 私などは、MGNETの名刺入れを手にし、あまりに軽く、シンプルだけど機能的だったので、思わず購入できる場所を尋ねたほどです。また「マジックメタル」という、文字が浮かび上がる金属が展示されていて、その精工な技術に目を見張りました。

 武田さんの講演にもありましたが、燕三条が世界的に注目されたのは、「工場の祭典」立ち上げ以前から、工場のオーナーの方々が世界各地の見本市や展示会に参加してきた活動が実ったともいえ、これからさらに世界に名をはせていくでしょう。

 そこでふと、考えたのです。こうした地域が誇る技術やモノが宿で触れられたら、あるいはその説明が受けられたら、おそらく多くの宿泊客はその地域に興味を持ってくださるに違いないと。宿は地域のショールームとして発信拠点であり、地域の歴史や文化を守る最後のとりでなのです。宿泊業の皆さまが果たす役割が、地域においていかに重要かを、日々、実感しています。

(温泉エッセイスト)

※観光経済新聞11月18日号掲載コラム

 
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