【ちょっと よろしいですか 102】旅館・ホテルが地方経済の基盤となる 山崎まゆみ


山崎氏

 あけましておめでとうございます。旧年中は本連載をご愛読いただきまして誠にありがとうございました。本年も皆さんのお役に立てる連載にしていきたいと気持ちを引き締めて取り組んでまいりますので、ご高覧いただけましたら幸いです。

 2020年初頭から新型コロナウイルスにより業界内は大混乱。ジェットコースターに乗ったかのような日々を過ごされたことと思いますが、ようやくインバウンドも本格再開。何よりも、行動制限のない日常が戻ったことは大変喜ばしいです。コロナは宿泊産業、観光業界に一大変化をもたらしました。読者の皆さんのご苦労を思えば軽々しく口に出せませんが、チャンス到来と捉え、さまざまな挑戦をされた事業者さんも知っていますし、変化しつつある温泉地も見ています。

 まず昨年秋から冬にかけて、温泉地や旅館ホテルに取材に行くと「まゆみさん、良い部屋が用意できなかった。この部屋でごめんね」と言われることが増えて、私はむしろとてもうれしかったです。それは人手不足ゆえに満室にできないという大きな問題を抱えつつも、インバウンドや全国旅行割でお客さんが来ているからでしたし、「旅館改修中のため部屋がない」ことも大きな理由でした。コロナ禍において、全旅連青年部の皆さんが「売るほど客室が余っている」と冗談で言っていたのが遠い昔の記憶のようです。

 旅館改修に当たっては、観光庁の「既存観光拠点再生・高付加価値化推進事業」と中小企業庁の「事業再構築補助事業」それぞれの特性を生かしているところが多いですね。従来の和室6畳から8畳だった2部屋や3部屋を、まとめて広い1部屋に改修し、そこに露天風呂やサウナを付けて1泊3万円台後半から4万円のグレードにするのが主流でしょうか。そのような高い宿泊単価の部屋はバリアフリールームも兼ね、3世代、4世代旅行を受け入れられるように改修した客室もよく見かけます。

 ユニークな改修といえば、愛犬などペットと宿泊できる専門棟を作っている宿もありました。有馬温泉「御所坊」では「終の棲家」ルームが素晴らしい完成度。これからお客さんにどのように活用されるか、追いかけたい部屋になっていました。また御所坊の屋上を、温泉街を一望できるデッキに工事中なのですが、こちらは古い日本家屋にあった物干し台のような雰囲気を演出し、郷愁を誘う凝った仕掛けです。湯河原温泉「上野屋」は、1日1組限定の宿泊施設を作りましたが、神奈川県在住の光彫り作家のゆるかわふうさんの現代アートをモチーフにしています。

 補助金を活用するとしても、旅館のリニューアルという目的だけではなく、人材や労務の問題に向き合い、借入金とその返済、また事業承継も考慮する場合もあるので、容易ではないでしょう。しかし風向きを変えるいい機会であることは確かです。先日、「これだけの公的基金を民間の一企業である旅館に注入できているのは、旅館が地域のインフラと認められた証明です」という話を聞いたばかりです。実に的を射た言葉だと思います。また、地域で一体となった好事例としては、新潟と群馬の温泉地の皆さんが取り組んでいる雪国観光圏を挙げましょう。

 雪国観光圏が制作した映像「100年後も雪国であるために」は、スペインのバレンシアで行われたWorld Tourism Film Awardsのツーリズムサービス部門で第2位と、世界で高く評価されました。旅館一つ一つの個性も重要。さらに、個性ある魅力的な宿が連なる地域を丸ごと、世界に向けて発信する。つまりエリア単位での観光戦略が今年はいっそう求められるでしょう。(温泉エッセイスト)

 
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