先日、長崎を旅してきました。一律安価な運賃で全国どこへでも行ける、航空会社のあのセールを使わない手はない。通常の往復のチケット代金で、セールのチケットと宿泊代金がまかなえてしまいます。ひとまず丸3日間のスケジュールを確保し、チケットの購入を試みました。
ニュースにもなりましたが、販売開始の午前0時はアクセスが集中したため、直ぐに諦め、明け方4時半に目覚めた時に、再びサイトをあけると、購入できる状態でした。
たまたま速やかに取れたのが羽田~長崎便でしたので、大きな目的があったわけではありませんが、長崎に行くことにしたのです。
長崎の温泉と言えば雲仙温泉、小浜温泉、島原温泉が代表的ですので、もちろん何度も訪ねましたが、長崎市内を巡るは本当に久しぶりです。ちなみに長崎市には稲佐山温泉が湧いています。
フライトと宿だけを予約して、あとは行きのフライトで、前日購入したガイドブックを読みながら、空の上で旅の行程を練ったのです。ガイドブックは基本的な情報が押さえられている上に地図もありますので、いまだ紙で情報を得たい私には1冊手元にあると助かるのです。
結局、長崎市内の名所の出島やグラバー園、大浦天主堂を巡り、歴史に思いをはせる旅をしたのですが、旅中(たびなか)で好奇心が活発になってきたことに気づきました。
久しぶりに普通の旅行者として観光すると、最も足が向き、滞在時間が長かったのはそれぞれの資料館でした。
資料館に展示されていた解説から、江戸から明治にかけての大きな変化をもたらした時代のうねりと華やかさが、ありありと浮かんできました。旅後(たびあと)の今はシーボルトで頭がいっぱい。ますます長崎への思いを募らせているのです。願わくば、現地で刊行されている書籍や、なかなか手に入らない書物に触れる機会を得たかった。抱いた興味を広げるツールがもっと欲しかったです。長崎のように歴史背景が観光コンテンツであるならは、解説こそが最も重要ではないか。私なら、そこに多少のお金を払ってでも、好奇心を満たしたいという欲がありました。
さらに外国人観光客、とりわけ土地の物語に興味を示す欧米豪の皆さんなら、その欲がより強いのではないでしょうか。
ふと、かつてデービット・アトキンソンさんがおっしゃった話が思い浮かんだのです。「日本人は説明が不得手だ。外国人は、日本の自然に興味があるのに、『なぜ日本の森は美しいのか』という問いに答えを示していない。自然災害により破壊され、森が再生する過程が美しいという、世界から見たらとても魅力的な話であるのに。きちんと説明してほしい」。
こんな話もされました。
「私たちが知りたいのは単なる翻訳ではなく、歴史的背景をきちんと踏まえた解説。必要なのは翻訳家ではなくライターではないかと思う」。
加えて、2020年に本紙の対談企画でご登場いただいた、食を専門とされるマッキー牧元さんから、外国人観光客を和食の店に案内し、食材や調理法だけでなく、結界の意味も併せ持つ箸の置き方なども説明すると、大変喜ばれたという話を聞きました。
その道を専門とする方の知見を外国人観光客に伝えてこそ、日本の価値を理解してもらえます。その解説こそが、日本贔屓を生むのではないでしょうか。
いまインバウンドで必要なのは、史実をきちんと話せる解説者であり、そこにお金を落としてもらう仕組みかもしれません。ひょっとしたら日本人が苦手とする、「表現することの大切さ」を、今一度、考える場があってもいいのかと感じます。
(温泉エッセイスト)