観光経済新聞社が日本の観光業界と地域の活性化を目的に立ち上げた「観光経済新聞チャンネル」に、第1回ゲストとして出演させていただきました。森田淳編集長と対談形式で「温泉と宿文化」をテーマに1時間、話をしましたが、この話題を選んだ理由は「温泉文化をユネスコ無形文化遺産へ」という機運が高まってきているからです。
さる11月11、12日に、「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産登録の早期実現を目指し「JAPAN ONSEN WEEK」が渋谷で開催されました。日本各地の温泉、そこに根付く温泉文化を再認識するために、人気温泉地や秘湯の宿の紹介コーナーを設置し、温泉文化体験スタンプラリーなども実施しました。会場が渋谷だったこともあり、温泉ファンになってほしい若い層のお客さんで大にぎわい。
12日(日)は渋谷ヒカリエで、東京大学、慶応大学、和歌山大学、会津大学の学生さんから温泉文化の活用法のプレゼンを拝聴しました。温泉の歴史や魅力を伝えるためにいかにITを活用するかといった発表でした。
その後、温泉文化カンファレンスでは渋谷区観光協会の金山淳吾理事長がコーディネーターとなり、日本温泉協会の多田計介副会長、中澤敬常務理事、ウエルネスプロデューサー岸紅子さん、私も参加し、温泉文化について公開議論と続きました。
この日のための準備で、私が温泉に携わってきた25年間を振り返り、世界33カ国の温泉を巡って知り得た知見を整理してみました。
大前提として「日本人は世界一、温泉を愛しており、お湯(温泉)に情緒という付加価値をつけて、文化にまで昇華させた。その温泉文化に誇りとアイデンティティーを抱いている」と、私は考えています。
さて、「温泉文化」とは―、一言で説明できる人はいるのでしょうか。
ふと、私が世界の温泉を旅し始めた頃を思い浮かべます。海外で日本の温泉ジャーナリストだと自己紹介すると、異国の人が群がるように、日本の温泉に興味を示したことを。
私はそうした人たちに、温泉街、共同浴場、露天風呂、温泉旅館―。特に畳に布団が敷かれた和室、夕食や朝食の膳、着物を着た女将、法被をまとうオーナーなどの数々の写真を収めたクリアファイルを使って説明していました。写真を欲しいとせがまれ、プレゼントしたことをよく覚えています。このように海外で日本の温泉を説明した経験が、私が温泉文化を考える際の原点となっています。
ただやはり、温泉文化を一言で表現するのは難しい。
いろいろ悩んできましたが、今では、温泉文化を伝えるコツは「人」を介在させることだと思っています。そもそも、ただのお湯(温泉)を文化にまで昇華させたのは日本人―、そう、人なのです。
人を前に出して説明することで、物語性が生まれます。
それは日本人が温泉を文化にしてきたエピソード、温泉のおかげで幸福になったエピソードの数々であり、これらを物語としてまとめることで、「温泉文化」をより具体的に分かりやすく示せるのではないかと考えています。
その一つの手段が、関東運輸局が主催する「江戸街道」の派生として現在取り組んでいる「温泉街道」です。幸い群馬県が興味を示してくださり、まずは群馬県の「温泉文化」の物語を掘り起こしてみたいと願っています。
もし「温泉文化」がユネスコ無形文化財に登録されれば、「和食」と同様に、海外から温泉を楽しみにやってくるリッチなお客さんが確実に増えるでしょう。
近い将来、そうなってほしいと夢見ています。
(温泉エッセイスト)