能登半島地震でお亡くなりになられた多くの方々にご冥福をお祈りするとともに、ご親族や関係者の皆さまに心からのお悔やみを申し上げます。年始に突然起きた災厄の被害にあわれた皆さまのご心中を思うと胸が痛み、どうか一日も早く平穏な日々がやってくるようにと祈るばかりです。
私は年末年始に新潟県長岡市の実家に帰省していました。最も大きな地震があった時は実家の近所の神社で初詣の長蛇の列に並んでいました。元旦の静けさと、ピンと張り詰めた冷たい空気の中で、一斉におびただしく鳴った緊急地震速報の異様さ。あの時、「ただ事ではない、何かが起きたのだ」と神社にいた誰もが察していたと思います。神社ですから地盤が安定しているはずですが、地面が波打つようにぐらぐらと揺れました。幸い、実家は玄関の衝立と庭の灯篭が倒れたくらいで、大きな被害はありませんでした。母も私もけがはなかったのですが、母が中越地震を思い出していたく興奮しましたし、その後のニュース映像を見ては怖がりましたので、しばらく実家にいました。
観光業界、宿泊産業もようやくコロナ禍から復活し、意気揚々とした年始を引っくり返す出来事で、一部地域の皆さんはまた厳しい状況下に置かれました。和倉温泉は源泉を引く配管の破損も伝えられましたね。その後も、地震で揺れた北陸の石川、富山、新潟の宿泊施設のキャンセル続出が伝わってきます。とある温泉地の方からこんな話を聞きました。
今は三つのイメージダウンがある。一つ目は、地震災害、余震等、安全ではないことによるキャンセルの発生。二つ目は、被災者を受け入れることによるキャンセルの発生。加えて、新規予約の減少。「うちの温泉地からの情報発信の量は多いのですが、旅に誘う話題は皆無です」。
残念ながら日本では「被災地に遊びに行くのは、被災者に悪い」という風潮があります。それはなかなか変えられない考え方です。
ですが、このタイミングだからこそ、一つご提案があります。
北陸の復興の兆しが見えてきたら一斉に、「被災地へのお見舞い観光」という考え方を広くアピールしませんか。ストレートに「お見舞い観光」と名付けてしまうのです。本連載でもたびたび伝えてきましたが、被災地に対する欧米の成熟した考え方を日本に取り入れるのです。
もう20年前の出来事ですが、2004年12月26日に起きたスマトラ島沖地震は死者22万人、負傷者13万人と伝えられる大惨事。犠牲者の中には日本や欧米諸国からの観光客も含まれていました。
私は翌年の2月に、タイ国政府観光局が実施したプレスツアーで、大打撃を受けたプーケットを訪ねました。がれきは散乱し、津波で流されてきたごみもそのままの状態。復興した様子は全くありませんでしたが、欧米人がビーチで遊んでいました。欧米からの観光客は「来ることが応援だろう」と言うのです。被災を見舞うという気持ちと、観光業への理解の深さに強く共感しました。
お客さんにとっての「被災地へのお見舞い観光」は、私にとっては「厳しい状況下に置かれた旅館に泊まると、お客と宿の間にあたたかい交流が生まれる。この交流こそ、旅の醍醐味(だいごみ)になる」と思えます。ですが、私の見方は特殊かもしれません。
宿泊業の皆さまにおかれましては、訪れた時のメリットや特典などを明確に発信してほしい。いま思えば、コロナまん延時の旅行支援もその一つでした。ただあれは割引というメリットがあるから訪問したお客さまがほとんどだったでしょう。今回は「お見舞い観光」と言葉で明確化し、風潮を変えていくのです。
実はこの原稿を書いている今日、観光経済新聞が主催する「人気温泉旅館ホテル250選認定証授与式&にっぽんの温泉100選表彰式」に参加してきました。和倉温泉「加賀屋」さんもお越しでした。思わず胸がいっぱいになり、ハグをして別れました。
(温泉エッセイスト)