「東京2020オリンピック・パラリンピック」がもたらした大きな変化の筆頭に挙げられるのは「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」の浸透でしょう。
さらに今では全国各地でユニバーサルツーリズムの推進が試みられています。
鹿児島市も2023年10月に開催される「かごしま国体」に向けて、食事処や立ち寄り場所等のバリアフリー調査に始まり、この冬は2組のモニターツアーを実施しました。
車いすユーザーの父と息子の「親子旅」は錦江湾でカヤックを体験し、夜は飲み歩きするアクティブな行程。40代の女性の車いすユーザーとその友人の「女子旅」は、女性が喜ぶ鹿児島市内の観光名所を訪れ、温泉にも入るというもの。私はこの「女子旅」に同行しました。
寒さ厳しい師走のはずが、好天に恵まれ、参加者の気分も良好。笑顔も弾けます。
鹿児島中央駅を出発し、薩摩藩の別邸「仙厳園」で園内散策と薩摩切子のかけらを使ったアクセサリー作りを体験。じゃんぼ餅や昼食も頂きました。薩摩黒温泉家族湯「山華」で入浴し、夕暮れ時には観覧車から鹿児島市内の光景を満喫。夕食はカジュアルイタリアンでわいわいと。
翌日は「きもの数寄 美々」で着物着付け体験。そのまま着物姿で人力車に乗り、西郷隆盛銅像から鶴丸城御楼門まで1時間ほどの散策。その後は着物を返却し、天文館で昼食を取り、人気スイーツを食べ歩く2時間。最後に市役所で意見交換会をしました。
多くの行程をこなした車いすユーザーの女性は「鹿児島市内で暮らしていますが、こんなにできることがあるなんて、知らなかった」と少し興奮した面持ちで、心に残ったことを二つ挙げました。
「たくさんの着物の中から、大島紬を選びました。着られる機会なんて、めったにないのでとてもうれしかった。友人にも紹介したいし、お正月に再訪しようかな」と満面の笑み。私も着付けの様子を見学していましたが、車いすに座ったまま着付けをし、帯は前で結ぶといった工夫がありました。
もう一つはバリアフリー対応の貸し切り風呂での温泉入浴です。「温泉なんて、何年ぶりだっただろう~。よく眠れました」と高揚しながら喜びを語りました。「初めて露天風呂に入りました」としみじみ。
モニターの女性2人が楽しそうに思い出を語りあう姿は、ツアーの大成功を物語ります。
同行した私の感想も列記します。仙厳園からの桜島はため息が漏れるほどの見事な景観でしたが、そこに到着するまでには、砂利道を通らなければなりません。介助者がいない場合は、エントランスで相談すればスタッフがサポートしてくれます。バリアフリールートマップも入り口で常備しています。そして鹿児島中央駅の観覧車は、モニターが乗るとき、降りるときは動きを止めてくれました。そうした細やかな配慮も、ハード整備以上に大切なことであることを痛感しました。
鹿児島市のように、車いすユーザーなどの当事者の言葉を素直に聞き、ユニバーサルツーリズムの取り組みを広く知ってもらい、どんどん利用してもらう。さらにまた意見を聞き、修正していく。地道なようでいて、これこそがユニバーサルツーリズムの未来を開く近道でしょう。
鹿児島市のモニターツアーを含むユニバーサルツーリズム現況調査事業を受託した「かごしまバリアフリーツアーセンター」の代表の紙屋久美子さんは「鹿児島中央駅周辺には車いすのままで楽しめるところがたくさんあります。例えば、関西圏から新幹線で鹿児島中央駅まで約3時間40分です。部分的にタクシーを利用しながら駅周辺の見どころを散策する2泊滞在は喜んでいただけそうですね」と自信をのぞかせました。
(温泉エッセイスト)