【ちょっと よろしいですか 83】入浴シーンに見る時代の変遷 山崎まゆみ


山崎氏

 温泉が出てくる小説や漫画はできる限り目を通しています。また映画やテレビドラマの入浴シーンにも敏感になります。先日はTBS日曜劇場で、俳優の阿部寛さんが上半身裸で大浴場に現れる場面を目にしました。

 映像で数多の入浴シーンを見てくると、時代の変遷に気づかされます。

 まず40年前以上、昭和56年の国鉄時代に撮影されたテレビCM「フルムーン」の撮影秘話を。

 「『わたし、案外、ボリュームがあるんですの』って、高峰三枝子さんに言われたんだ。お風呂の撮影中、高峰さんのおっぱいがぼよよんって浮かんでくる。撮影を止めては、おっぱいをお湯の中へしずめたんだ」とは、このCMを撮った大林宣彦監督のお話。高峰さんの豊かな胸は週刊誌で記事になったといいます。

 上原謙さんと高峰三枝子さん扮する熟年夫婦が白いスーツに身を包み、さっそうと旅をする。行き先は温泉宿。秘湯の宿にある混浴風呂で夫婦が一緒に入浴する場面です。 

 JR東日本の方に、「当時は、かなり話題になりまして、ポスターを貼っては盗まれ、また貼るのを繰り返しました」と聞いたことがありますが、実際、“フルムーン夫婦グリーンパス”チケットが爆発的に売れたそうです。

 まさに、伝説の入浴シーンでしょう。

 撮影が行われたのは群馬県法師温泉長寿館の「長寿の湯」。明治29年に作られた国の有形文化財です。ステンドグラスから入る光で、ほんのり明るい浴場が情緒を醸し出し、新鮮なお湯が湯船の底から湧いてきます。肌に潤いを与える化粧水のような温泉です。

 その後も女性が温泉に入浴するシーンが求められた時代が長く続きました。

 事実、私も20代、30代の頃は温泉レポーターとしてひっきりなしの出演依頼がありました。そういえば、CMの出演の依頼もあったっけ。

 その大きな流れをがらりと変えた二つのエポックメイキングな出来事があります。

 一つめは平成25年放送の大河ドラマ「八重の桜」で主人公・八重の兄役の西島秀俊さんが入るお風呂のシーン。放送後、「西島さんがお風呂に入る姿をもっと見たい」と女性の視聴者から熱烈なリクエストが多数あったそうです。

 細身の西島さんが「お風呂で脱いだら筋肉質だった」には私も胸がキュンとしました。このときに、「女性が男性の入浴シーンを見たいと堂々と言える時代になったのだ」と感じたことをよく覚えています。

 この大反響がきっかけになったかどうかは定かではありませんが、その後、若いママたちに絶大な人気を得ている、戦隊シリーズのヒーロー役を演じた男性俳優たちが旅のレポーターを務め、温泉に入浴する姿を日常的に見るようになりました。

 温泉の和やかな空気が流れながらも、男性俳優の鍛えられた身体は目を引きました。 もう一つは大ヒット漫画「テルマエ・ロマエ」を原作とした映画「テルマエ・ロマエ」でしょう。阿部寛さん扮する古代ローマ人のお風呂(テルマエ)の設計技師であるルシウスが、ひょんなことから日本の銭湯にワープすることから物語は始まります。古代ローマと現在の日本のお風呂や温泉地を行き来して、ルシウスは現代の温泉入浴法やお風呂グッズを古代ローマに持ち帰るという筋書き。

 額に汗を浮かべながら目を細め、うっとりとため息を漏らす阿部さん。さらに湯上がりには、筋骨隆々の背中とよくしまったお尻も美しかった。

 ちなみに映画「テルマエ・ロマエⅡ」の最後のシーンは、奇しくも、テレビCM「フルムーン」と同じ法師温泉で撮影されています。

 旅館の公式サイトに男性の入浴写真を掲載したら、話題になるかもしれませんね。

(温泉エッセイスト)

 
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