現在、有識者として観光庁のさまざまな会議に参画しています。中には、旅館や地域の事業計画書を拝見する機会もあります。
旅館の改修計画を目にし、改修後に現地を訪ねたときの感激たるや。先日訪ねた宿でも、高単価にふさわしい素晴らしい部屋が完成していました。
観光庁の「既存観光拠点再生・高付加価値化推進事業」、また4年連続で実施されてきた「宿泊施設インバウンド対応支援事業」などで、多くの旅館さんが改修をされています。顕著な流れとして、超高齢化社会を鑑み、宿のユニバーサルデザイン化(以降、UD化)が全国各地で進んでいます。
ただ…見学したときに、「この部分はこうした方がもっとお客さんが喜ぶのになぁ…」と、残念に感じることもないわけではありません。
宿のUD化を検討されている方に、基本的な考え方を列記します。
まず「ドア幅の間口」について。90センチあればベター、100センチあればベストです。これは体の大きな外国人や電動車いすも想定したサイズ。ただ車いすを自走するお客さんは、間口が狭い方がドアを閉めやすい場合もあります。介助者がいる高齢者などは、広い方が良いでしょう。
次に「洗面台の高さ」について。床から洗面台までの高さは70~75センチほどでしょうか。そのまま車いすが入れるように、奥行きのスペースの確保も忘れずに。
さらに「床の素材」に注意。電動車いすを想定し、床がその重さに耐えられるかが必須条件です。
「客室にお風呂がつく場合」ですが、和室からも、ベッドルームからも、ダイレクトにお風呂に行ける動線があると喜ばれます。それはトイレも同じです。
コツとして「広さを確保する」ことは、UD化のお部屋においては大変重要。次の間など、空間に余裕があるなら、部屋の広さの方が優先です。
和室ならば、壁に保護シートを貼ることを考慮してもいいかもしれません。車いすのまま和室に入る場合、壁に車いすをぶつけてしまうことも予想されるからです。
改修において、最も大切なのは「湯船の構造」です。まず車いすユーザーには、掘り式のお風呂よりも、床に湯船が乗っているスタイルの浴場の方が喜ばれます。その湯船の高さは50センチ前後が目安です。45~55センチの高さなら、車いすを横付けすることができるためです。
さらに「移乗台」が用意してあると便利です。車いすの座面から腰をあげ、移乗台に腰を下ろし、その後、足から温泉に入っていけるので動作がスムーズです。なお湯船の縁を広くすれば、「移乗台」の役割も果たせます。
UD化した部屋の情報公開です。公式サイト上には、必ず各所のサイズと画像を掲示してください。動画でアップすることができたら、お客さんにはより分かりやすく伝わるでしょう。
そして駐車場からフロント、ロビー、部屋、大浴場、食事処への動線に、段差や階段があるのか、ある場合は何センチの段差なのか、エレベーターの有無なども、明記してください。一見、UD化にとってネガティブと思われがちな段差や階段の情報は、予約前にお客さんに説明し、納得してから来ていただくと、滞在中のトラブルが減ります。
このように、ハードの整備だけをしても受け入れ準備OKというわけにはいかないのがUD化改修の難しさです。
施設改修や案内の心得に加え、「受け入れマニュアル」の作成も大切なのですが、それはまた今度記します。
お困りでしたら、アドバイスをいたしますので、お声がけください。
(温泉エッセイスト)