【にっぽんの温泉100選特集】旅行会社4社座談会 JTB×クラブツーリズム×日本旅行×東武トップツアーズ


温泉地の活性化に向けて

 観光経済新聞社では、旅行会社、OTAによって選ばれる「第38回にっぽんの温泉100選」の投票受け付けを7月から開始した。にっぽんの温泉100選は、人気の温泉地を探るという目的だけでなく、各温泉地が上位を目指して切磋琢磨することによって全国の温泉地が活性化することも狙いの一つ。そこで旅行会社4社座談会を開催し、JTB、クラブツーリズム、日本旅行、東武トップツアーズの旅行企画・造成担当者に「温泉地の活性化」について語っていただいた。

注目している温泉地

 ――最近、注目している温泉地についてお聞かせいただきたい(司会=編集部・板津昌義)。

武井 一つは、奥飛騨温泉郷。その理由としては四つあって、まず温泉地としての「湯力」が素晴らしい。湯量が豊富で温泉の質も非常に高い。2点目が、近くに日本屈指の山岳リゾート地である上高地が控えており、シンボルがしっかりと近くにあるということ。3点目は、大阪、名古屋、東京という大都市圏からのアクセスが非常に良いこと。最後に、松本駅と高山駅の両サイドからの路線バスも充実しており、ターミナルからの二次交通もしっかりしていて、車を運転できないお客さまでも温泉地に行くことができる。

 もう一つは、別府温泉だ。こちらで8月31日と9月1日の2日間、「別府温泉ぶっかけフェス2024」が開催される。お湯をみんなで掛け合いながら楽しむ音楽のイベントで、飲食店などのブースも出るというのは今までの温泉地開発の中ではなかなかなかった切り口だ。そういう新しい角度の取り組みに対しては今、非常に注目をしている。

堀口 まず県で言えば、長野県。長野県には無色透明から色付きの白濁、緑色まで特色のある温泉地が多く、また、あまり知られていないが、泉質が非常にいい温泉地が多い。その中でも白馬八方尾根温泉が私の推しの温泉地だ。泉質は世界的にも高いpH11を超えるアルカリ泉。肌触りはツルツルとしていて絡みつくような感じですごく良く、非常に素晴らしい効能もある温泉だ。ただ、スキー場のイメージが根深くあるため、今、グリーンシーズン向けの観光開発が進められている。温泉とともに楽しめる北アルプスのロケーションが都会の喧騒から離れた情緒を感じさせてくれるいい場所だ。利便性に関しても、首都圏からも、北陸側からも行きやすく、立地的にも面白い場所にある。

遠藤 今、面白いと思っているのは富士山石和温泉だ。というのは、河口湖は外国人客が非常にあふれている状況だが、一方、そこからバスで1時間くらい行ったところの富士山石和温泉はインバウンドの需要がまだそこまで高くない。料金的にも比較的リーズナブルだ。中身についても日本有数のワイナリーといった観光素材がたくさんある。二次交通などまだ弱いところもあるが、その辺りを整備していけば富士山石和温泉はもっと輝ける温泉地になる。

 宿に関しても、個性的な宿がまだ多く残っている。例えば、「ホテル石風」は内装がエモいような旅館だ。そういった旅館がまだたくさん残っている地域なので、これから面白いのではないか。

岡本 注目の温泉地は、栃木県から湯西川温泉を挙げたい。「スペーシアX」という新型の特急が昨年7月から運行を開始したが、スペーシアXと湯西川温泉はイメージが直結していないのか湯西川温泉の数字が思うように伸びていない。だが、平家の落人伝説が残るほか、日光市には属しているものの日光の喧騒がうそのような静けさの中で湯西川の清流のそばに宿が数軒ひっそりと建ち並んでいるところだ。インバウンド客もあまり来ない。日本の古き良き温泉というものを味わえるのが湯西川温泉だ。

 

 ――今、挙げられた温泉地の他には。

武井 一つは熊本。半導体の工場がいろいろ造られるなど非常ににぎわっているというところだ。特に阿蘇温泉は、阿蘇というなかなか他にはない、非常にシンボル的なものがある。そこの露天風呂にも入ったことがあるが、他にはない、開けた景色が見られる。そういったエリアの代名詞的なところや、他の地域では見られない絶景が露天風呂から観賞できるのが非常に強いところだ。

 下呂温泉は、草津温泉、道後温泉と並ぶ日本三名泉の一つとして著名だ。観光協会が観光振興に非常に積極的であり、スイーツなども展開している。

堀口 私は海が好きなので、伊豆のエリアはすごくいい。伊豆は東西に分かれ、朝日が良かったり夕日が良かったりする。堂ヶ島温泉は、「日本の夕陽百選」にも選ばれているところで、その夕景は本当に心奪われる景色だった。堂ヶ島温泉の「海辺のかくれ湯 清流」は波打ち際の露天風呂を備え、波がこっちまで来てしまうのではないかというぐらい迫力があり、音も楽しめた。五感で感じるという意味ですごく好きな宿だ。

遠藤 伊豆と対局したところにあるところで房総を挙げたい。夏場は暑いと思われるかもしれないが、実際は東京よりもかなり涼しく、マスコミでも避暑地ということで取り上げられ始めている。風景という面で見ると全国区ではないが、館山や犬吠埼などがいいのではないか。伊豆のように全国区の知名度はないが、食事的な部分は伊豆に引けを取らない地域であると個人的に思っている。

岡本 関西出身なので西の温泉地を挙げると、有馬温泉と白浜温泉。この二つに共通しているのは、フィリピン海プレートが沈み込むときに600万年くらい前の海水が温泉となって湧き出てくるという、火山性と全く違うタイプの温泉であること。NHKの「ブラタモリ」は終わってしまったが、あの番組のおかげで日本人に地学や地形好きの人が多く生まれたような気がしており、「ここに温泉が湧く理由」や「600万年かけて地表に到達した温泉」などの惹句はお客さまの興味をそそるのではないか。有馬温泉や白浜温泉は改めて言うまでもなく、ブランド力があるが、既存の手法以外の集客方法も今後視野に入れていきたい。

 

 ――消費者に選ばれる温泉地というのは、どんな温泉地なのか。

堀口 日本に温泉地が3千カ所ぐらいある中で、秀でた魅力を出していかなくてはいけないのが今の悩みどころだ。その中で、温泉に加えて特有の素材を持っていて、組み合わせて宣伝ができるエリアが強い。長野県の中で紹介すると、湯田中渋地区は開湯1300年の歴史があるエリアで、SNSでも非常に注目されるようになってきた。日本一の星空で有名になった昼神温泉は地域の魅力を最大限に引き出している上に、実は泉質もすごくいい。自分も行ってみて驚いた。温泉と星空の組み合わせがしっかりできたことによって、若い世代のお客さまが中京圏から集まり始めた。そういった温泉プラスアルファの素材があることが、選ばれる要素ではないか。

 戸倉上山田温泉は行政との連携でインバウンド向けの集客を考えた「NEOネオン」という施策を行っている。日本のシニア世代に好まれるスナックの多い温泉街があり、そこを売りにして、インバウンド客に日本人とのふれあいを楽しんでもらう企画を行政が始めて、それに旅館組合が乗っかっているという非常に面白い温泉地だ。

遠藤 一番ベタだが、草津温泉だ。湯畑があって、煙がもんもんと出ていて、浴衣を着て食べ歩きができるなど、誰もが思い浮かぶ温泉地というものがパッケージ化されている。決して交通の便がいいわけではないが、それでもこれだけ多くの人が集まるのは、温泉地の風情が自分の思い描いたイメージ通りの温泉地であるという点が一番の強みだ。冬場には道路に温泉を流して凍らないようにしているなど、SDGsの部分でも先駆けて取り組んでいる地域だ。

 お客さまに選ばれる共通の条件としては、温泉地のイメージが一番大事だ。アニメなどで温泉場を描いた時に一番イメージ的に近いのは草津温泉なのではないかと個人的には思っている。そういった意味では草津は選ばれやすい地域だと思う。あと草津温泉は知名度もある。

 また、時期によっても捉え方が異なるが、これからの夏という話になると、嬬恋や北軽井沢といった高所の避暑地としての温泉地もいい。嬬恋や万座など都会の喧騒から離れて、宿と自然と温泉ぐらいしかないという温泉地も癒やしを求めるお客さまにとって選択対象になるのではないか。

岡本 私も選ばれるというと草津温泉を想起する。自治体も宿泊施設など観光業者の皆さんも観光に特化して本当に努力している。最近、渋滞を緩和させるために道を改良したのだが、ただ渋滞を解消するだけでなく、「温泉門」という名前で一つの見どころにした。そういった発想力も他にはなく、感服する。やはり地元の一体感が一番大きい要素ではないか。
同じことを愛媛県の道後温泉にも思う。行政と観光事業者の距離が近くて、次々とアイデアや誘客施策が発表されて、非常に元気の良さを感じる。

武井 私も草津温泉と道後温泉だ。湯畑、道後温泉本館というシンボルがあって、そのシンボルをもとに温泉街としてのまちづくりがすごくしっかりしている。さらに道後温泉であればアート、草津温泉で言うと新しく開発した「裏草津」地区というように温泉だけに終わらない面の広がりもある。草津温泉と道後温泉は東西の両横綱だ。

 それ以外の温泉地で言うと、砂蒸しができる指宿温泉であったり、星空観賞を楽しめる昼神温泉であったり、その土地ならではのキラーコンテンツを持っているところが強い。交通が少し不便であってもお客さまをそれで誘引することができる。その温泉プラスアルファのキラーコンテンツが何なのか、各温泉地で掘り下げることが必要だ。

 

――温泉100選の目的の一つである、温泉地活性化に向けたアドバイスを。

遠藤 今の状況で言うと、インバウンド誘致のテコ入れが一番重要だ。日本人向けとインバウンド向けの誘致策をある程度分けて考えなければいけないが、東京や大阪などのホテルでは日本人とインバウンドの宿泊客比率は50対50になっている状況であり、インバウンド誘致は避けて通れない問題だ。インバウンドの誘致に刺さるようなものが手っ取り早く効果が出る。そういう意味ではSNSの活用が今一番重要だ。

 ただ、インバウンドで何が刺さるのかというのは弊社内でも日々模索しているが、的確な答えを見いだせていないのが現状だ。話題となっている河口湖のコンビニと富士山もインバウンド誘致を狙ってコンビニを造ったわけではない。

 例えば、河口湖の某旅館は旅館から見える富士山の風景で有名になり、ほぼ90%がインバウンドのお客さまで1年中満館の状況だが、同じ河口湖の旅館であっても、インバウンドの誘客がまだ弱いところがある。インバウンドの誘客は避けて通れない喫緊の課題であり、明確な顧客層として認識をしていかないと、これから温泉地としてはなかなか伸びていかないか。

岡本 東武グループの弊社としては鬼怒川温泉への送客が大命題だ。日光は昨年7月のスペーシアXの運行開始以来、順調に集客ができており、対前年の3倍ぐらいの人が行っている。だが、昼間に日光で観光をしたお客さまが夜に鬼怒川温泉へ行って宿泊するという流れが今のところあまりできていない。日光と鬼怒川では宿泊在庫の数が全く違うので、日光の在庫が枯渇している場合には鬼怒川に誘導したいところだが、それがまだ完全にできていないのが実情だ。東武鉄道もSLを鬼怒川方面で運行するなどテコ入れをしており、「東武ワールドスクウェア」というテーマパークもあり、鬼怒川の雄大な渓谷もある。他の温泉地にあって鬼怒川温泉に欠けているものはそんなにないはずだが、日光宿泊を希望する方の誘導はなかなか難しい。

 宿泊在庫が多いというのは旅行会社の理屈であって、お客さまにとって日光もいいけれど、夜は鬼怒川で楽しもうというストーリー作りがまだ不足しているせいだと思う。なぜ鬼怒川温泉に泊まらなければならないのかというストーリーを地元の方と相談しながら作っていきたい。昼神温泉は夜に星を見たいからそこに泊まるというストーリー作りがしっかりできているのが強みだ。

武井 国内のマーケットにおいて日々お客さまと接していて感じるのは、旅行での「健康志向」と「個人化」だ。一つは、なかなか明確にはできないが、温泉に何日入るとこれぐらいの効果があるというお湯の素晴らしさをしっかりと伝えていくことが大切だ。また、温泉旅館の10畳和室という形態は、インバウンド客には非常に受けるのでいいが、日本人が1人で使用するのはなかなか難しい。高齢になったお客さまはベッドがいいとか、ご夫婦であっても1人部屋の方がいいという流れができているので、個人マーケットに適したハード面の改善をしてもらいたい。

 今、各施設の人手不足を非常に感じる。観光業界全体でどうやって地域の生産性を上げていくか考えていかなければならない。温泉地は地方にあるから、地方の人口が減っていく中で、極論で言えば、サービスの中で諦めるものは諦めて少ない人数でも回せるようにすることだ。1人当たりの労力をいかにうまく使っていくかが非常に大事だ。

堀口 企画力を強化することが非常に重要だ。昼神温泉はそのモデルケースだ。温泉と言えば草津や道後といった有名なところが出てくるが、私は2008年に入社したのだが、その頃に昼神温泉という言葉を知らなかった。それをここまで大きくできたのは、企画力、アイデア力、地域の特色を地域の方々の試行錯誤で発見できたところにある。

 自分たちも企画をする上で重視しているが、ターゲット別に考えることが一番の近道。SNSを活用する発信力のある若者世代に対しては自己承認欲求を満たす取り組みが必要だ。最近、「オールインクルーシブ」の宿が増えてきた。人に自慢したくなるものを求める若者世代ではそれが好まれている。一方、シニア世代は、部屋に食事を持ってきてもらうなどおもてなしのある宿で楽しみたいという人が多い。今、非常に志向が多様化している中で、若者世代、シニア世代、インバウンドという三つにターゲットを分け、自分の宿がどこに当てはまるのかを考えることが必要だ。

 

 ――皆さまの意見、アイデアは温泉地活性化の一助になるはず。本日はご出席ありがとうございました。

 

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