【インバウンド最新リポート 75】ワクチンパスポートが鍵 JNTOパリ事務所 村上強志 所長


フランスの制限解除・観光再開

 4月29日、マクロン大統領より、フランスにおける段階的なロックダウン緩和策が発表された。6月30日までに4段階に分けて実施することとしている。具体的には、5月から移動制限の解除が始まり、美術館・博物館や映画館、レストラン・カフェのテラス営業が再開された。さらに、6月からはサロンや展示会・博覧会の再開、外国人観光客の受け入れの再開などを実施することとなっているが、その際、PCR検査などの陰性証明、ワクチン接種や抗体保持の証明(いわゆる「ワクチンパスポート」)の携行が必須となる。

 今後、ワクチンパスポートが諸活動の必須アイテムとなるため、ワクチン接種の動きも加速している。6月1日現在、1回目のワクチン接種者数が2500万人超となり18歳以上の成人の過半数を超えた。

 欧州圏内の動きも紹介したい。EUでは「デジタル・グリーン証明書」を7月1日から運用する。これはフランスのワクチンパスポートと同機能を有し、電子証明としてスマホで対応する(ただし紙の証明も可)。これにより、EU圏内の移動だけでなく、同証明書を承認する非加盟国から同圏内への入国を認めることとしている。今後の移動に係るデファクトスタンダード(事実上の標準)を目指しているのだろう。

 なお、日本もメンバーである経済協力開発機構(OECD)でも昨年末から既に同様の検討を議論しており、6月に任意のガイドラインを取りまとめる予定となっているが、EUはまさにデジタル・グリーン証明書で対応しようとしている。

 昨年度、パリ事務所では情報発信やウェビナーなどの事業を実施した。日本が閉ざされている中でも反応は良く、訪日あるいは日本への憧れの根強さを改めて実感した。同時に「国境はいつ開くのか」という声がますます高まってきている。「開国への圧力」なのかもしれない。

 フランスをはじめ欧州では「人間は移動して当たり前」と思っている節がある。EU憲章でも圏内の移動の保障を明記している。一方、こういう事態に直面すると、日本では「人間は本来移動するもの」という発想が弱かったのではないかと感じる。

 日本の動きとしては、政府が経団連の要望を受けて日本からのビジネス渡航を対象としたワクチンパスポートの導入について検討に着手した、というニュース以外、残念ながらパリには伝わってきていない。医療体制、国民の意識などさまざまな課題があるのだろうと想像するが、「日本への観光目的での入国再開」のニュースが伝わってくるのはいつになるだろうか。

 欧州ではワクチンパスポートという新たなツールの開発を通じて観光再開、そしてその前提となる移動再開に向けた打開を図ろうとしている。今後、日本においてもワクチンパスポートの利用に関する議論が深まることに加え、海外情勢へのキャッチアップのための受け入れ側のゲームチェンジに期待したい。

 
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