西大寺会陽(岡山市)
「ドンッ、ドンッ、ドンッ」。2月の澄んだ空気を伝って太鼓の音色が広い境内に響き渡る。ここは岡山県岡山市西大寺。天下の奇祭ともうたわれる「西大寺会陽」がまさに始まろうとしている。
この祭りは裸男(はだか)の参加者が1万人にものぼり、国内最大の裸祭りとも言われている。起源は古く、起こりは奈良時代までさかのぼる。会陽19日前に事始式、会陽2週間前からは修正会が行われ、結願の日(2月第3土曜日)に宝木(しんぎ)が投下され、福男の座をかけて裸男たちが争奪戦を繰り広げる。
私もまわしを締め、仁王門をくぐった。今年で3回目の挑戦になる。なんの因果があってか、生まれも育ちも全く関わりないこの地の祭りに参加し続けている。これもまた私を駆り立てる何かが西大寺会陽にあるのだろう。
目の前には本堂。大勢の裸男たちが殺到している。本堂の上部・御福窓から投下される宝木を獲るため、投下数時間前から体と体をぶつけ、ひしめき合いながら待ち構えている。いつもこの光景を目の当たりにすると足がすくむ。
ふと遠くを眺める。煌びやかな衣装をまとった女性たちが太鼓を打ち鳴らす。裸男の安全を祈願し奉納される太鼓の音。リズムに急かされるように、いよいよ腹をくくって裸男の群衆に飛び込む。
暑い、いや、熱い。これが1万人の裸男たちの熱量。あまりの暑さに本堂下では湯気が立ち昇る。福男になるために岡山まで来たのだ。ここで引き下がるわけにはいかぬ。葛藤をしながら宝木投下を私もひとりの裸男として待つ。
22時。宝木が投下された。灯が消され、漆黒に舞う宝木。私の手元に宝木と思しきものが飛び込んで来た。しかし、手に何かをつかめたと思ったのも束の間、周りを取り囲まれ、争奪戦になった末に奪い取られてしまった。今年も福男にはなれず。
悔しさや疲労感、さまざまなものが押し寄せてくる。しかし、闘いを乗り越えた際に訪れる安堵(あんど)、そして、生の感覚。この不思議な感覚が私を会陽のとりこにしてやまない。
(お祭り男・菅原健佑)
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宝木投下を御福窓下で待つ裸男のせめぎ合い