片貝まつり(新潟県小千谷市)
また、この絶景の一部になれるだろうか。世界最大級の四尺玉花火を見上げる夜10時、上昇する光の筋とともに最高潮に達した会場は一瞬、台風の目の中で凪(な)いだように静まり返る。まるで共通の家族の無事を祈るように、桟敷席の観客は息をのみ、手を握った。
9月9日と10日の2日間にわたる片貝まつりは、「花火大会」とは一風変わる。浅原神社参道の提灯に墨書きされた「秋季例大祭 奉納大煙火」の正式名称ににじむように、江戸時代以来の伝統を伝える、手作りの村祭りだ。1発1発の花火に個人スポンサーがいる。還暦を記念する大スターマインや、結婚、出産、故人の追悼など、それぞれの花火に人生が詰まる。四尺玉でさえ、その年の新成人へ向けた町民一同からのお祝いだ。
その伝統が、一瞬で燃え尽きる花火の他に形を残さないのも、また独特。写真どころか、映像にも写らない美しさが、片貝の花火にはあるのではないか。そんな青臭い仮説に突き当たったのは、20歳で迎えた2013年、四尺玉を見上げた私自身が、1枚も花火の写真を撮らなかったことに気づいたからだ。
この町では、花火はともに打ち上げる共体験として響き合う。暗闇を上昇する光の筋に力を貸そうとして、カメラを構える余裕などなかった。いにしえのスタジアムのような会場が共振しながら、空へと花火を押し上げる。あなたもきっと、一筋の軌道にさえ心を寄せることになる。そして花開いた光に照らされてやっと、物語を見届けた者の1人として、自分もその光景の一部を担ったと知る。
目に見えないものとの戦いはまだ終わらない。けれども、目には見えない割火薬のような日陰の力こそが、花火の星の輝きを空に拡散させ、驚くほど調和した花を咲かせる。人生そのもののような、光と影の火薬の絡み合いが、どのような配合で鮮やかな模様を描くのか。丸い花火玉の内に込められたドラマは今も、種子のように、いつかあなたの目の前で花開く夜を夢見ている。
(文豪志望・佐藤みずほ)
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2013年の四尺玉(写真=小千谷観光協会提供)