コロナによる予約取り消しで連日事務所に鳴り響いていた電話が、ある日ピタリと止む。ついにキャンセルする予約もなくなった現実を突き付けられ、それでも立ち止まらなかったのは、あの大震災を経験したからこそだった。
コロナ感染拡大第1波は繁忙期である5月の大型連休を直撃し、昨対比1割程度と目も当てられない状況だった。災禍から立ち上がるには公的補助など外部の助けが求められるが、コロナは局地的な自然災害ではなく、日本全国を襲った災禍だ。
待っているだけでは駄目だ。観光による人の流れが止まれば地域経済も打撃を受ける。そう感じて、まず自粛が本格化する前の2月に企画したのが地域で使える利用券「地盛券(じもりけん)」の配布だ。宿泊人数に応じて1枚500円分をホテル原資で発行し、南三陸町内の協力店舗での利用を促した。Go Toトラベル事業の「地域共通クーポン」の先駆けといえる。
会長を務める「みやぎおかみ会」でも、地域の観光経済を支える旅館・ホテルが苦境にあった。そこで、直近の収入を確保し、収束後の観光需要の促進と消費のために企画した取り組みが「みやぎお宿エール券」だ。おかみ会加盟施設のうち17の参加施設で発行し、1万円購入につき1万3千円分(千円券×13枚)が購入した施設で使えるプレミアム利用券となる。5月から6月にかけて全施設累計で1万3千セットを販売した。事業継続のための資金を確保し、各自治体で発行した助成券やGo To事業の開始前より券の利用を目的とした宿泊を促し周辺観光による地域活性化にも寄与した。
立ち止まってはならない。その一念だった。裾野が広い宿泊業においては影響を受ける業種が多く、また一度休廃業してしまえば再開が難しいことも、あの震災で目の当たりにしていた。
震災後も被災地へ人の流れが止まらなかったのは、そこに現地にしかない魅力があったから。コロナ禍において人々が未来の観光に期待が持てるような企画を今後も発案していきたい。
(一般社団法人日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 南三陸ホテル観洋女将 阿部憲子)