私が旅館を経営している熱海市内の糸川沿いでは今春も桜があでやかに咲き、散った。が、観光地としてのダメージはやはり深刻だ。2019年度は入湯税ベースで309万人の宿泊客数が、駅前で人気の無料足湯が無人になったこともあった2020年度は約40%減の185万人に。統計を取り始めた昭和38(1963)年以来最低の数字という。財政面でも自治体の貯金ともいうべき財政調整金を取り崩し、住民への助成金や予算編成をしている。
楽観的に見ても今年いっぱい、営業の復旧は難しい。しかし、苦労が絶えない日々の経営の中でもアフターコロナを見据えて動きだすべきだ。キーワードは官民一体となって臨むONE TEAM(ワンチーム)―である。
今後、観光の受け皿になる地方では、コロナ禍により雇用環境の悪化や税収不足、福祉など社会保障関係経費の増加により必然的に法的な後ろ盾がない観光関連予算が縮小されるのではと危惧を覚える。観光を主幹産業とする地域では交流客数の増加が直接地域経済の資源であり、幅広い雇用が可能な唯一の分野である。今後地方においては地域住民の福祉水準を保った上で、観光施策や地域活性化施策にどこまで予算と人材を投入できるかが要だ。
では資金面はどうするか? クラウドなども含め民間資金および多様な経営能力を積極的に取り込み、ふるさと納税などの活用など使えるものは躊躇(ちゅうちょ)なく試していく姿勢が大事だろう。人材は行政と観光従事者、という今までの思い込みを捨て、農林水産業や子育てもする一般住民の声にも耳を傾けることが肝要だ。まさにこの窮地の時、「観光地域づくり法人(DMO)」を実践する一歩を踏み出すのだ。
こうした活動が住民、移住者、そして観光客を包み、この伊豆地域ならではの心と体の健康、自然を融和させ世界に通じる観光地になる。あの足湯もきっと今の孤独を癒やしてくれる。
糸川でさえずっていたウグイスが、そう教えてくれた。
(一般社団法人日本宿泊産業マネジメント協会会員 月の栖 熱海聚楽ホテル代表取締役社長 森田金清)