ホテルであれ旅館であれ、お客さまに選ばれる理由を持つことは大事である。本稿の表題は、それを考えるキーワードとして掲げた。しかし結論を言えば、これは昔からいわれている「角(つの)を出す」を言い換えたにすぎない。
レーダーチャート(別名:クモの巣グラフ)というものがある。中心から放射状に何本かの軸線を引き、それぞれに評価要素を当てはめて描くグラフだ。軸が6本なら正六角形、8本なら正八角形の座標フィールドができる。そして例えば、中心を0点、一番外側を100点、その真ん中を50点(=業界平均値)とみなして、これによって商品力などを評価する。
問題は軸とする要素だ。常識的には、立地環境、施設、料理、サービス…といったものになるだろう。いったんはそれでもいい。ただしこれだけでは、評価はできても、それ以上何の役にも立たない。そこでこの軸に、あえて自社の独断と偏見でフォーカスした要素を入れたものを別に描いてみることをお勧めしたい。例えば―客室の機能、パブリックのムード、庭の魅力、快眠、名物メニュー、朝食、スタッフの親切度…といった具合だ。つまりこれは、「何が特徴と言えるか」、もしくは「これからどんな特徴に磨きをかけていくか」といったことを視覚的に考察するための戦略ツールなのである。
さて、改めてここに自施設の現状をプロットしてみる。この時、大方全てが50点(=平均点)付近に丸く収まっているとしたら…どこかで「角を出す」=平均点から大きく飛び出す部分を作っていくことを考えてみよう。平均点だけでは戦いに勝てない。「脱・平均点」思考で突破口を切り開くのだ。
このやり方は、全方位的に高い価値を実現しているところには無用かもしれない。だがそれでもなお一考の余地はある。全てに高質なところでも、もしかすると同等レベルの施設の中では、これといって捉えどころのない「印象の薄い存在」となっている場合もあるからだ。
(一般社団法人日本宿泊マネジメント技能協会会員 株式会社リョケン 代表取締役社長 佐野洋一)