旅館の人手不足はコロナ禍でも深刻であり、今後も続く見通しである。そんななか、石川県の和倉温泉にある多田屋旅館へ都内の大学生が夏休みのアルバイトにやってくる。前夏に多田屋のインターンシップに参加した学生2名のうちの1名がアルバイトとして戻ってくることになったのである。
都内のホテルから内々定をもらっている大学4年生で、就職活動を終えた夏休み1カ月間を多田屋で働く予定だ。彼は昨年インターン生として2週間を過ごし、旅館業の楽しさと厳しさや宿泊業が地域で果たす役割を学んだことからホテルへの就職に至った。もともと宿泊業に興味を持っていたため観光を学んでいたが、地元の食材を使った料理や観光地の説明を宿泊客にした時のやりとりが忘れられないという。この経験から、和倉温泉や能登が彼にとっての第二の故郷になったのである。
では、インターン生を受け入れる旅館のメリットやデメリットは何か。大学生や若い世代が少ない地域では、都会の大学生の感覚を直接知ることができる。多田屋では、インターン生が一生懸命に業務に挑戦する姿を目の当たりにし、従業員への刺激になったという。さらに今回は、繁忙期のアルバイト確保というメリットがあった。
一方で、インターン生への説明や教育、大学とのやり取りに時間や労力を取られるデメリットがある。また、インターンシップは社会貢献であるため、必ずしも採用に結びつかない。
ビジネスにおいて自分たちが持っていない経営資源を確保するためには、外部から調達するか、使わないで済む方法を考えるか、そこで育成するかになる。
今回のように、学生が旅館でのインターンシップを通して成長し、その後アルバイトとして繁忙期に活躍するサイクルを作ることができた場合は、学生と受け入れ側の両者にとってメリットがあったといえよう。人手不足を解消するために、パートアルバイトを雇うだけではなく低学年からインターンシップを受け入れることも一策であろう。
(文教大学国際学部国際観光学科准教授 一般社団法人日本宿泊マネジメント技能協会会員 種村聡子)