リモートワークが増える一方、より快適なオフィスを目指す企業が多くなり「Biophilic Design(バイオフィリックデザイン)」という言葉をよく聞くようになった。「Biophilic Design」とは、人間は潜在的に自然との結びつきを求めているという「バイオフィリア仮説」から発想された、空間の中にいながら自然とのつながりを感じられるように考慮したデザインのことである。
近年、ホテル空間でも「Biophilic Design」を取り入れた事例が増えており、その中から二つのホテルを紹介していきたい。
自然とのつながりを感じられる空間と聞いて最初に思い浮かぶのは、ニューヨークにあった「The Hudson」である(2020年閉館)。フィリップ・スタルクのデザインによって約20年前にオープンしたこのホテルは「Biophilic Design」の先駆けであった。カラーガラスで包まれたエスカレーターを上ると広がるロビーは、グリーンで覆われたキャノピーとレンガ壁が生み出すヨーロッパの中庭のような雰囲気と、フロント前に吊るされた大きなシャンデリアが醸し出すニューヨークのスタイリッシュさが融合し、不思議なインパクトを感じさせる空間であった。
またロビーから続く中庭は、グリーンと一緒にベッドやソファを使ったオープンなレイアウトによって、まさにガーデンラウンジといった印象だったのを覚えている。
次に二つ目の事例として、グリーンを効果的に使った空間が特徴的な「1 Hotels」を紹介したい。ホテル全体は「世界は一つであり、自然環境やそれに対する責任は皆でシェアしている」という考えにより、ただグリーンを配置するだけでなく、備品や食材に至るまで自然環境が人間にもたらす心理的・物理的影響を最大限配慮しながら計画されている。
空間内は木やレンガ、石やコンクリートなどニュートラルかつ表情豊かな素材の中に、たくさんのグリーンやカジュアルな家具が配置され、内と外の境界線を曖昧にした「自然との融合」を体現したデザインとなっている。
自然環境だけでなく人間への影響にも配慮した「Biophilic Design」が、今後国内で広がればと願っている。
(一般社団法人日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 株式会社ディー・ピー・インターナショナル チーフデザイナー 山口彩子)