【シニアマイスター経営の知恵 169】大学生と「モチべ」 帝京大学経済学部観光経営学科教授 山中左衛子


 「モチベ」、学生がよく使うこの言葉に最初は驚いたがもう慣れた。略して使うぐらいだから、モチベーションは彼らの日常生活に深くかかわっている。といっても残念ながら勉学ではなく、専らアルバイトや部活、サークル、趣味が対象のようだ。

 筆者は、ホスピタリティ産業、ホテル経営の講義や演習を担当している。長らくホテルで人材育成の責任者を務めたことから、組織文化、モチベーション、リーダーシップ、チームマネジメントを取り上げるが、モチベーションの段になると眠っていた学生の目が開く。アルバイトの時給が上がった、初めて褒められた、サークルの先輩が声をかけてくれた、そして心の内から湧き上がってくる達成欲など内外のさまざまな要素が自身のモチベーションの源泉であり、人と違うことに気づくのも面白いらしい。

 講義で「生活に意味づけと楽しさを与える没入体験を表現するフローという概念」(M.チクセントミハイ、今村訳、1991、『楽しむということ』、1996、『フロー体験 喜びの現象学』)に触れると、スポーツや趣味におけるフロー体験を語る学生がいる。また少数ながら、同じアルバイトを続けて熟達し、フローとしての仕事の集中力と場の支配感、万能感を得る学生も存在する。

 ホテルに勤務していた頃、日本ホテル協会の研修委員を務めた縁で、ある理工系大学院の教授から修士論文に取り組む学生へのアドバイスを依頼された。テーマは、飲食業のスタッフの顧客対応力を向上させる教育のしくみだった。

 その学生は、アルバイトを続けた居酒屋で、リーダーとして新人育成に心を砕いた経験から、航空運航の危機管理モデルTEM(スレット&エラーマネジメント)を使った研修プログラムの構築を目指していた。筆者は、その学生自身の仕事に対するモチベーションの高さ、顧客対応に異分野のモデルを応用する発想に感銘を受けた。

 発想といえば、大学でも最近、「ホスピタリティ演習」というオープン科目を通じて、学生の発想に学ぶ機会を得た。同科目は、苦情を含む接客事例を組み合わせた台本作りとロールプレイ、架空の店を舞台にしたモチベーション向上策のプレゼンテーションを山場としている。

 プレゼンテーションで、学年も学部も異なる混成チームが「メイドカフェ」を選んだ。チームはまずメイドカフェに対して聴く側が抱くかもしれない先入観を取り払い、メイドたちがモチベーション低下に悩んでいる状況を具体的に設定、パワーポイントの画像を駆使したプレゼンテーションで、メイドのモチベーション向上策を繰り広げ、筆者を瞠目(どうもく)させた。楽しむことを知った学生たちのパワーは計り知れない。

 (帝京大学経済学部観光経営学科教授 宿泊マネジメント技能協会会員 山中左衛子)

 
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