あらゆる面でグローバル化が進む現在は、多文化が共生せざるを得ない状況である。対立を回避するためには、多様性を尊重する姿勢がカギとなる。観光の現場でも、地域のキャラクターマップをもとにした戦略づくりが求められることは言うまでもないだろう。
私はさまざまな地域で「観光まちづくり」に携わってきた。その立場は、住民、行政職員、学芸員、大学教員などと変わっているが、常に感じているのは、どの地域も唯一であり、奥が深い、ということである。自分に少しでもいい加減なところがあると、型に押し込めようとしたり、目立つ資源を大きく評価し、それが地域のキャラクターだと思い込んだりしてしまう気がしてならない。
A市とB市にまたがるCという地域がある。A側にある古刹(こさつ)からB側の鉄道駅に至る参道に商店街が形成されているが、その途中の市境があるため、別組織となっている。もちろん、双方の行政は連携を進めてはいるが、見えない壁は頑丈すぎる。私は、観光振興をテーマにこの地域と付き合って10年以上になるが、その間に立場も変わり、仕事とは直接無関係になって久しいが、住民レベルで両者を結び付ける目的で立ち上げた団体の役員(実質上の事務局)になったことで、ずっとこき使われ続けている(もちろん良い意味で)。
他の門前町での成功事例をもとに催事を提案し、実行したこともあった。ある程度は成功するが、どうもしっくりといかない。地元の熱意が、それほどまでにならない。考えてみれば、1本の参道といってもA側とB側では、歴史的経緯から現在の都市計画に至るまで異なっている。その自覚は別にして、その上に住民らは生活している。これを理解しないで催事を行っても…ということである。
考えてみれば、これがCという地域の個性なのである。これを無視しては、砂上の楼閣しかできない。何が正解か、暗中模索を続けているが、どうも楽しんでいる自分がいる。これが「観光まちづくり」の醍醐味(だいごみ)なのだろうか。
(帝京大学経済学部観光経営学科教授 小笠原永隆)