カール・マルクスはその著書『ルイ・ボナパルトのブリュメール一八日』の冒頭で、歴史が過去から繰り返されてきたことを、「一度目は偉大な悲劇として、二度目はみじめな喜劇として」という有名な言葉とともに書き記している。2023年においても世界各地の観光地で繰り返されている観光公害やオーバーツーリズムをみるにつれ、2020年の段階で議論された内容の多くが継承されなかったことを、私たちはいかに考えればよいのだろうか。
観光研究ではポスト・コロナの観光復興をにらみながら、コロナ以前に世界各地で問題となっていた観光公害やオーバーツーリズムに対処するため、観光のサステイナビリティ(持続可能性)が盛んに議論されていた。その際、観光公害やオーバーツーリズムが、観光活動の受益者と負担者の乖離(かいり)によって引き起こされている点に注目が集まってきた。それゆえ、観光活動の受益者と負担者を一致させるために、法令・税制の整備やリピーター創出のための観光政策の重要性が強調されてきた。一連の議論を受けて、近年では観光地のサステイナビリティを高める方策の一つとして、高付加価値の観光商品・サービスの展開による、観光者の量・質のコントロールに注目が集まっている。しかしこれらの施策は、近代社会が享受してきた「誰もが観光に行ける社会環境」を放棄していくことの裏返しであるようにも思える。
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