高齢化社会、多様性・人権の尊重、インバウンド対策という背景から、アクセシブルツーリズムへの注目が高まっている。今回は、これまでターゲットとなりにくかった障がい者、特に発達障害と旅行について考えてみたい。
障害者基本法によると、障がいは「身体障害」「知的障害」「精神障害」の三つに分類されており、発達障害は「精神障害」の一部として扱われている。
障がい者の旅行におけるこれまでの取り組みとして、視聴覚障害を含め、身体に障がいのある人々へのスロープやエレベーターの設置、介護タクシーとの連携、点字や音声案内、手話や筆談での対応などハード・ソフト両面からのアクセシブル化が進んでいる。しかしながら一見では障がいがあるとは思われにくい発達障害を持つ人々へのアクセシブル化は進んでいるのだろうか?
発達障害は生まれつきの脳の情報処理や制御機能の偏りによって、生活に困難が生じる状態を指す。彼らの多くは、見通しの立たない状況(初めて行く場所など)では不安が強く、視聴覚等の感覚刺激への敏感さがあることから外出することが困難なケースもあり、そもそも旅行をあきらめてしまうことも多い。
そこでわれわれは発達障害者への”安心の保障”として何ができるだろうか? ソフト面としては、旅行・観光業に関わる全ての人が発達障害についての知識と理解、対応方法を身につけることが初めの一歩であろう。発達障害者個人へは、本やYouTubeなどを利用して旅行先をあらかじめ知っておく事前学習が実践されている。ハード面では、旅行先で不安やパニックになった際に利用できるセンサリールーム等の設置が有効であろう。こうした「落ち着ける場所」が駅や観光施設など、さまざまな場所に設置されていることで安心感が生まれ、外出への動機づけにつながる。もちろん支援する人々の負担軽減にもなるであろう。
アクセシブルツーリズムが目指す「高齢者や障がいのある人を含め、すべての人が安心して楽しめる旅行」を普及・促進していくならば、障がいについての理解を深め、その障がいの特徴に合わせた配慮を提供していく必要がある。
だれもが安心安全な旅行を楽しむ環境づくりを提供することにより、多様性を尊重した社会の実現も可能となる。あきらめを希望に変える取り組みに期待したい。
(八洲学園大学生涯学習学部生涯学習学科教授 竹田葉留美)