この秋、オーストリア・ウィーンを訪れる機会を得た。下調べの時間をとれない残念な気持ちは、程なく、欧州きっての大国・ハプスブルク帝国の威光を留める古都に降り立てる、という期待に塗り替えられた。仕事先も宿も、歴史的建造物が建ち並び観光客が多く訪れる旧市街にあり、仕事の合間の短時間ではあるが街なかを気ままに歩く時間をもつことができた。
町並みは、建物の高さやファサード・ディティールがよく保たれるとともに、もてなしを感じられる演出が随所にみられ、その調和を導くデザインコード等の規範やそれらを運用するエリアマネジメントの担い手と財源の確保等の仕組みが充実しているのだろうと思われた。同時に、欧州の都市、とりわけ古都の住民の町並みへの愛着と貢献について語られた恩師の言葉が鮮やかに蘇った。
もうひとつ心引かれたのが交通・移動の姿である。例えば、観光施設周辺で辻馬車が自動車の脇を悠々と歩いているかと思えば、自転車の路面標示や自転車のピクトグラムの信号もあり、何台もの自転車がさっそうと走り抜けていく。頻繁に運行しているトラムも多くの自動車も道路空間を上手に共有しつつ心なしかゆったりと走行しているように感じられた。
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