昨年6月、観光庁は「地域一体型ガストロノミーツーリズムの推進事業」に13件の事業を採択した。その地域の一つ、北海道余市町ではワインを軸にこの事業を推進している。
余市町におけるワイン用ぶどうの生産は、今からちょうど50年近く前に本格的に始まった。生産量は道内随一であり、その背景には、土壌、地形、気候が成育に適していることなどがある。
2010年に曽我貴彦氏が立ち上げた、ドメーヌ・タカヒコは世界的に評価の高いワイナリーに成長していった。2011年には、余市町がワイン特区の認定を受け、小規模ワイナリーの起業が容易になった。こうして、現在はワイナリー数は19軒となり、人気の作り手も多い。
地元では希少価値の高いワインも味わってほしいと、地元食材のコース料理と地元のワインのペアリングセットをいくつかの施設で取り入れている。「この店に行けば入手困難なワインを飲める」という場所を作っているのである。これは、美食を求めて世界を旅する人をも引きつけることだろう。
ここで懸念されるのが、高級路線に限定することへの反発である。選択と集中は経営の鉄則であるが、一部の人々しか関与しないとなると、地域一体型の観光振興は難しくなる。
何度も世界1位に輝く、デンマークのレストラン、ノーマでは、庶民的な価格帯のハンバーガーレストラン、POPL(ポプル)を開業したり、ノーマから独立したパン職人がベーカリーカフェを複数出店したりと、美食を基軸に据えながらも多様な価格帯での展開を始めている。
他方で、ガストロノミーでの環境配慮も重要な課題である。筆者は令和5年度より「美食地政学に基づくグリーンジョブマーケットの醸成共創拠点」のプロジェクトに参画し、10年かけて美食と環境負荷の低減や気候変動への対応を両立させながら、地域のフードサプライチェーンを構築することを目指す。どうバランスをとるかが鍵となろう。
本稿はJST共創の場形成支援プログラムJPMJPF2110の支援を受けて実施した調査に基づくものである。
(日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 宮城大学食産業学群准教授 丹治朋子)