現在の日本の諸問題の中で、観光業が特に注視すべきは、少子高齢化が急速に進んでいることです。
総務省は昨年9月「敬老の日」を迎えるにあたって、65歳以上の人口割合(高齢化率)が29.1%で過去最高になったと発表しました。
一方、子供の人口減少も深刻です。厚生労働省の発表によると2022年度の「合計特殊出生率」(15~49歳までの女性の年齢別出生率の合計)は1.26と過去最低を記録しました。7年連続の低下です。
こうした人口構成を見ると、観光需要の回復を図るには国内のお客さまだけでなく、海外からのお客さま、いわゆるインバウンドを増やしていくことが不可欠と考えられます。その主な理由は次の三つです。
第1に、少子高齢化の進行や海外旅行の普及により、国内旅行需要の停滞は今後も続くと予想されます。「Go Toトラベル」のような大掛かりな対策が展開されても、日本の観光業全体の復活には及びませんでした。国内の需要だけに頼っていると、観光業は衰退を待つばかりでしょう。
第2に、新型コロナウイルスのパンデミックが落ち着いた後の、訪日外国人客数は急激に戻ってきており、今後も増加していくと考えられます。
第3に、訪日外国人がもたらす経済効果の大きさです。観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、2018年の訪日外国人1人あたりの旅行消費額は15万3029円でした。日本の定住人口1人あたりの消費支出は同じ年に126万9千円でした(総務省「家計調査報告(家計収支編)」)。これを換算すると、外国から8人のお客さまが訪日することによって、日本国民1人が1年間の暮らしに使う金額とほぼ同額のお金を落としてくれるということになります。
しかし一方で、現在観光地では地域住民や環境などに悪影響を与えるいわゆる「オーバーツーリズム」が大きな問題となっています。地域の生活を守る「持続可能な観光」を目指しながらも、今後ますます国全体として訪日外国人客数を伸ばし、その経済効果を高めていく必要性があることも確かです。
(熱海温泉ホテル旅館協同組合 理事長〈博士 観光学〉森田金清)