今から90年前、アメリカ・シカゴにあったウェスタン・エレクトリック社ホーソン工場で現在「ホーソンの実験」として知られている実験が行われた。この実験から導き出された多くの事柄についての評価は分かれているが、私は社員がやりがいをもって働くための環境づくりには何が重要か、また経営者として社員を育成していくために何が大切なポイントかについて多くのことが示唆されていると思っている。
実験は1924年から1932年までの長い期間をかけて2万人以上の従業員を対象に行われた。目的は工場の物理的な作業条件と従業員の作業効率との関係を分析することだった。アメリカの経営学者レスリスバーガーとハーバード大学教授のメイヨーが担当して進められた。実験の内容を詳しく説明することは省略するが、この実験から得られた結果のポイントは次の事柄であった。
1.作業効率や生産性を向上させるカギは、作業環境の改善や労働条件を高めることより、従業員の「態度」や「やる気(モラール)」にあり、職場の良好な人間関係がこれらに強く影響すること
2.従業員自ら作業環境の条件を決めたり、生産高の標準値を設定する自由度が大きくなるほど仕事に対する満足度が増すこと
3.従業員の作業成果は労働時間や賃金ではなく、周りの上司の注目の度合いに最も大きな影響を受けること
もちろん当時と現在では時代が大きく変わっているのは当然である。技術は格段に進歩し、ITが導入され、自動化やロボット化が進み、さらにグローバリゼーションにより世界中のどこにでも条件が整えば生産拠点を置くことができる。けれども、人が働くという根源は変わらない。
私は総支配人として勤務していた企業や従業員教育を担当していた企業で、この実験で得られた結果を意識して全ての従業員に接することを心がけてきた。現実には100%の効果を出せたとはいえないが、多くの従業員の意識を変えることにつなげられたと感じることはできたといえる。皆さんが直面している厳しい経営環境や労働環境とは一律には論ずることはできないけれども、何か明日へのヒントがあると思う。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 東洋学園大学講師、元京王プラザホテル札幌総支配人、元京王プラザホテル人事部部長、近藤昭一)