政府は、2020年の訪日外国人旅行者数を4千万人とする目標を掲げ、全世界からの誘客に取り組んでいます。今や多くの観光地が観光による雇用や経済効果といった恩恵を受けていますが、その一方で、過度な観光客の集中による弊害「観光公害(オーバーツーリズム)」問題に悩まされています。
私が住む京都でも、交通機関の混雑や渋滞、ごみの投棄、騒音や環境破壊など、その弊害は多岐に及び、ストレスフルな生活を強いられている地元住民も少なくありません。それは観光客に対する受け入れ意欲の低下を招き、「おもてなしの心」を失う恐れもあります。実際私も観光業に携わっていますが、自分に余裕がない状態においては、観光の持つ負の側面に接したとき、観光客への感謝の念が薄らぐこともあります。
この問題に直面している各観光地は、「持続可能な観光」を目指して、さまざまな方法を模索しています。世界遺産白川郷では、今年初、ライトアップイベントへの入場を完全予約制とし、訪れる観光客の量の「制限」を行いました。また、京都では「朝/夜観光」などの観光形態の推進、観光スポット別の混雑度のネット配信、人工知能(AI)によるデータ分析など、「時間・場所・季節」の視点で、観光客の量の「分散化」に取り組んでいます。
観光は国や地域の発展に欠かせない重要な要素であり、その観光振興には、地域住民との調和が必要不可欠です。今後も、国と地域の双方に観光客受け入れ環境の整備やさまざまな対策への取り組みが求められるでしょう。住民も行政に任せたままにしないで、観光客を迎えることをきっかけに、地域を見直し、知恵を出し合うなど、幅広い参画をすることが大切だと思います。その結果として、地域が持つ新たな価値を見いだすことができるでしょう。日常を暮らす市民と非日常を楽しむ観光客の皆で未来を考え、共存共栄できる地域づくりを推進していくことができればと考えています。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 株式会社ハトヤ観光取締役 岩井順子)