2016年のインバウンド需要は2400万人を超える見通しで、観光関連産業に慈雨? とも言われる。低迷を続けた観光業界には経営改善のきっかけとして何よりのインパクトであるが、自然資源と人文資源に恵まれ、恩恵を受ける地域と受けないところの格差は地域おこしで埋めきれるものではない。
グローバル化による市場環境の変化は観光収支に貢献するが、需給構造に多様な影響を与え、一部地域に集中するために宿泊施設の需給バランスを崩し、料金値上げが顕在化している。一物一価は古典的な思考となり、稼げる時に稼ぐのは宿泊産業の業態特性からは当然のなりあいではあるが、節度が欲しいと感じるのはシニアのひがみであろうか。事業の永続性を考えると企業イメージにどのような影響を与えるのか心配である。
インバウンドの経済効果は国内観光消費の数%である。政府はIR法案の強硬採決までして経済浮揚策を推進しているが永続性の視点からの議論を深めたい。
経済低迷の続くなかで企業の基礎体力は逓減しており、かつ消費者ニーズの変化に対応して企業間競争も厳しい観光産業に対する行政の支援は望ましいが、半世紀前の東京オリンピック後の需要低迷による市場混乱は、高度経済成長のなかにも関わらず、さまざまな悪影響を残した。長期にわたる経済低迷の後遺症もあるからこそ、今なすべき課題を慎重に考えたい。
●人財を蓄える制度の構築
少子高齢化による就労人口減少もあり、労働市場の流動性は高まるなか、労働集約産業の雇用環境は改善の兆しを見せていない。慢性人不足のなか、熟練者の確保も難しく賃金も頭打ちを続けるなかで新たな管理システムが求められるが、「サービス産業の労働生産性」の向上と処遇改善は進んでいない。
厳しい市場競争場裏での需要創造と、潜在需要の喚起なくして企業存続が難しいことは言うまでもないが、企業には人材育成、就労者には自分のキャリアパスにつながる職業能力向上に伴う専門性・力量の的確な評価制度が強く求められる。
昨今、ホテルの倒産・再編はほぼ落ち着いてきたが旅館の退潮は止っていない。日本文化を代表する旅館の強みはホテルに勝って劣るものではない。旅館業界の奮起を期待している。
●問われる経営能力
絶えざる経営環境の変化にタイムリーに適応できなければ、優勝劣敗の経済原則に従うことになるが、経営判断の遅れこそ主な要因である。原因は複合的であるが、労働集約産業に共通する課題は管理システムの構築と人財確保・育成にある。労働集約である宿泊業は「ひと」が重要な経営資源であり、かつ労働生産性が企業損益を左右する業態であるが管理制度は良好に機能しているとは言い難い。
管理重点の洗い直しに挑戦していただくことをSMN一同心から願っている。
(NPO・シニアマイスターネットワーク理事長 流通科学大学名誉教授 作古貞義)