訪日旅行シンポジウムのテーマは「欧米豪市場からの誘客強化に向けて」。国内の旅館経営者や自治体の担当者、海外の政府観光局の代表が登壇してパネルディスカッションが行われた。地方への誘客拡大を目指し、地域の特性を生かしたブランディングの実践などが提言された。
進行役は日本政府観光局(JNTO)グローバルマーケティング部長の蜷川彰氏。登壇者は、フランス観光開発機構ジェネラルマネージャーのクリスチャン・マンテイ氏、スキーヤーを中心に豪州などからの誘客に成功している長野県白馬村、信州白馬八方温泉しろうま荘総支配人の丸山俊郎氏、継続的な取り組みでインバウンド先進地となっている岐阜県高山市役所海外戦略部長の丸山永二氏。
JNTOの蜷川氏は、訪日外国人旅行者数に占める欧米豪の割合が約1割にとどまり 英仏独からの誘客数では日本はタイ、中国を下回っていると指摘。「欧米豪の旅行者は滞在日数が長く、1人当たりの消費額が高い。誘客の拡大が必要だが、まだまだ欧米豪の市場を取り込めていない」と問題提起し、特に地方への誘客を課題に挙げた。
地方への誘客策について、マンテイ氏は「ブランディングが重要。オンラインを活用し、旅行者が『何を探しているのか』『どこに行っているのか』を調査し、コンテンツ、イベントをつくり、アピールしていく。お客さま自体がブランディングの力になる。同時にオフラインでは旅行会社などと連携して取り組むべき」と提言した。
しろうま荘の丸山氏は「自然、景観、アクティビティ、伝統行事、温泉など、都会にない魅力を地域ぐるみで再発見、あるいは創造して提供していくことが大切。魅力と感じてくれるだろうターゲットの設定、魅力を感じてもらうための見せ方もポイント」と指摘した。
高山市の丸山氏は「地域の魅力に地元の方々が気づくことが大事だ。多額のハード整備は必ずしも必要ない。『2次交通が足りない』と言う地域の悩みもよく聞くが、魅力があり、的確に情報が提供できていれば、たとえ1日数本の列車しかなくても、滞在日数の長い欧米豪の旅行者は来てくれる」と述べた。
地方への提言では、マンテイ氏が「地方のアイデンティティを守ることが大事。フランスでも国内における多様性を大事にしている。どこに行っても同じなら、その国には一度しか行かない。地方それぞれの違いが力になる」「デスティネーションとして専門的なテーマを持つこと。スキーとか、ワインとか。そのテーマの中で世界トップ3を目指すべき」と訴えた。
地域内、地域間の連携については、しろうま荘の丸山氏が「外国人がまだあまり来ていない地域であれば、事業者同士、官民が、全体の利益を考え、一体で取り組むことが必要。個々の利益はその後だ。長期的な視点に立ち、どうすれば自分たちが潤うかを考えるべき」。高山市の丸山氏は「行動範囲の広い欧米豪の旅行者を集客する上で広域連携は不可欠。自分の町、自分の県だけをPRしているところが依然多い」と指摘した。
旅行者のニーズへの対応については、高山市の丸山氏が「日常の何気ない風景などにも魅力を感じてもらえる。例えば、当地で外国人に人気となっている里山サイクリングは、田園風景の中を巡り、住民と交流するもので、特別な場所や施設を訪れるわけではない。どの地方でもチャンスがある」と語りかけた。