茨城県境町は、いまバスファンに最も注目されている自治体の一つでしょう。
鉄道駅が町内になく、これまで公共交通が不便でしたが、圏央道の開通をきっかけに高速バスを誘致。JRバスなどが応じて、東京駅直結の路線が開設されました。それまでは、路線バスと東武動物公園駅からの電車で都心へ2時間近くかかっていたのが、高速バスで1時間余になったのです。
町内では自動運転バスの試験運行も始めました。ソフトバンク系の会社と提携して、町内2路線を開設。うち1路線はバスターミナルで高速バスと接続し、町中心部と東京都心をつなぐルートを形成しています。これまで公共交通が不便だった町に、「交通革命」が起きているかのようです。
実際に訪れてみると、まず東京駅直結の高速バスは速いだけでなく快適。ゆったりしたリクライニングシートに身を預けていると、混雑する電車に乗る気がしなくなりそうです。
高速バスターミナルで乗り継いだ自動運転バスは、時速20キロで町内のメインストリートを走ります。路上駐車を避けるときや信号を待つときなどは乗務員の操作が必要。とはいえ、障害物がなければ道路を自動で静かに進み、近未来を感じさせます。安全確認の停止が多く、実用性はまだまだという印象もありますが、今後の発展を期待させてくれる乗り物でした。
町内に自動運転バス網を築き、着席保証のある高速バスと接続し都心とつなぐというアイデアは秀逸です。高齢化社会を見据え、将来の地方小都市の一つの交通モデルになるかもしれません。
もちろん課題も多く、なにより地域の足として定着するには、高齢者の足だけでなく、通勤・通学需要に応えることが重要です。現状、高速バスは1日8往復で、都心への通勤手段としては心もとない数。自動運転バスは日中のみ1日各線4往復の運行にすぎず、朝夕に便がないので中高生の通学には使えません。
今後、ラッシュ時の輸送力をどう築くかが、地域の足として定着するカギになりそうです。
地域交通は基本的には住民のためのサービスですが、公共交通網があると旅行者にも安心感を与え、観光業の発展にもつながります。予算の制約もあり、利便性をどの水準まで求めるかのバランスは難しいですが、境町の挑戦に注目せずにはいられません。
(旅行総合研究所タビリス代表)