終電後の深夜に運行する、都心から郊外へ向かう路線バスを「深夜急行バス」と言います。
新型コロナの前、深夜1時過ぎの渋谷駅前のバス乗り場は、この深夜急行バスでにぎわっていました。東急と京王が運行していて、行き先は溝の口、青葉台、新横浜、吉祥寺、府中など多彩。「ワンロマ車」と呼ばれる高速バス、一般路線バス兼用車両が使われたり、リムジンバスの車両が使われたりと、日中にはない車両運用が見もので、バスファンなら一度は見ておきたい、深夜のゴールデンタイムでした。
その深夜急行バスが大きな転機を迎えています。東急が渋谷発着の深夜急行バス全5路線を、7月31日付で廃止するからです。
東急の深夜急行バスは「ミッドナイトアロー」といって、1989(平成元)年に運行を開始した、この分野では草分け的な存在です。バブル景気のさなか、終電後にタクシーを捕まえるのが大変だった時代に、低価格で帰宅できる交通機関として人気を集めました。以後、平成時代を通じて、深夜の渋谷の交通風景として定着していました。
しかし、新型コロナ禍を機に全路線が運休。運行を再開しないまま、正式に路線を廃止することになったのです。
深夜急行バスの廃止は、東急だけではありません。京急はコロナ禍後、深夜急行バスの全路線を廃止しました。東急と同じ渋谷発着の京王も運休中で、再開の告知はありません。
新型コロナの状況は落ち着きつつあり、朝夕のラッシュの電車には、以前とそう変わらない混雑が戻っています。にもかかわらず、深夜急行バスが運行を再開しない理由は、生活様式の変化でしょう。深夜時間帯は、人の動きが減ったまま戻らないのです。
コロナ禍前、午前0時前後の渋谷発の電車は酔客で混雑していました。しかし、最近の深夜の電車は拍子抜けするほどガラガラで、鉄道会社はダイヤ改正で終電を繰り上げています。新型コロナがもたらした働き方改革もあって、日付が変わるまで飲み歩く人が減ったのです。
とはいえ、深夜に帰宅せざるを得ない事情の人には、終電繰り上げに続き、深夜急行バスまで廃止されては困るでしょう。代替として、昨年解禁された相乗りタクシーを、鉄道・バス・タクシー会社が連携して、深夜時間帯に活用する施策などを検討してもいいのではないでしょうか。
(旅行総合研究所タビリス代表)