アラフィフ以上の方なら、上原謙さんと高峰三枝子さんが一緒に温泉につかったシーンをご記憶の方も多いでしょう。1981年、当時の国鉄が販売を開始した「フルムーン夫婦グリーンパス」の宣伝です。
国鉄全線のグリーン車に乗り放題で、夫婦2人で7日間7万円という設定でした。1人1日あたり5千円というのは、当時の料金水準でも破格です。宣伝効果と商品力の高さがあいまって大ヒット商品となり、「フルムーン」は当時の流行語にもなりました。
国鉄の分割民営化後もJR各社が扱ってきました。しかし、近年は人気に陰りがでていたようで、ついに廃止が決まりました。例年、10月から翌年6月が利用期間でしたが、2022年10月以降の設定はなく、フルムーンパスは40年の歴史に幕を閉じました。
フルムーンパスの魅力は、なんといっても、JRのグリーン車に一部列車を除き無制限で乗車できるというものでした。国鉄離れが深刻だった時代に誕生したきっぷなので、実に気前のいい設定でした。
しかし、この気前の良さが、あだとなったようにも思えます。最近の価格は、7日間で10万4650円でしたが、これでは東京―広島間を往復すれば元が取れます。さすがに安すぎるからか、JR各社は昔のように宣伝に力を入れていないようにも感じられました。
「夫婦」という利用条件に関しても、生涯独身の方が増えている状況で、結婚を選択した人にだけ破格の割引を提供する形が適切なのかという問いかけが浮上していました。近年は、同性婚カップルへの対応を求める声も上がっていました。高齢化社会で、2人で88歳という年齢制限も若すぎる印象がありました。
窓口でのみ販売可能な紙のきっぷだったので、JR各社が推進するネット販売になじまない商品だったともいえます。状況を総合すると、廃止はやむをえないのかもしれません。
ただ、「乗り放題」というのは、グリーン車の空席利用の売り方としては悪くないのではないか、という気もします。「夫婦」縛りをなくし、たとえば「50歳以上、2人以上利用可」という設定で、ネット限定販売、予約可能座席に上限を設け、自動改札対応にして、値上げして再開できないものでしょうか。
旅好きには魅力ある商品ですから、たとえ値上げしても、利用者はいるでしょう。形を変えての復活を望みたいところです。
(旅行総合研究所タビリス代表)