先日、JR日光線に乗ったときのこと。起点の宇都宮駅を午前中に出る列車は、東北新幹線から乗り換えてきた外国人観光客で少し混雑していました。
列車は通勤形の3両編成で、全席ロングシート。新しい車両ですが、着席定員は少なめです。全線乗り通すと約40分かかり、その間、立ちっぱなしとなれば、観光に向かう旅行者にはしんどい話です。
日光線は駅名標や案内板などがレトロ調で、旅情を盛り上げる工夫が凝らされています。その努力は素晴らしいのですが、肝心の車両が観光客向けではないのです。
少し前まで、日光線には「いろは」という観光用車両が投入されていました。クロスシートの座席もあったのですが、老朽化により引退し、後継車両は投入されていません。
外国からの観光客をもてなすならば、特急形車両を入れて、朝夕2往復くらい走らせても良さそうです。指定席を設ければ着席を保証できるので、荷物の多い外国人観光客には喜ばれるでしょう。
ただ、日光線を利用する外国人観光客の多くがジャパンレールパスを利用しているので、JRとしては投資をしても回収しにくいという事情があります。ジャパンレールパスは特急列車に乗り放題なので、特急を投入しても、増収にならないのです。
特急料金を支払ってくれる観光客は、JRより便利な東武日光線の特急を使います。JRも新宿から日光への特急を運行していますが、途中駅から東武日光線に入るので、宇都宮駅は経由しません。
国土交通省は、鉄道分野におけるインバウンド受け入れ環境整備を推進していて、「インバウンドの拡大による収益の増加を、利用者へのサービス向上の形で確実に還元する」と宣言しています。そのために、無料Wi―Fiの整備や、車両内トイレの洋式化、荷物置場の整備などを鉄道事業者に求めています。
それも大事ですが、ジャパンレールパス利用者に対する観光路線での着席サービスの提供は、こうした施策以前の問題に思えます。
いまの日光線は、混雑といってもまだ余裕がありますが、インバウンドが本格的に戻れば、すし詰めになりかねません。
特急は無理だとしても、指定席のある座席数の多い車両を増発するくらいの措置は、期待したいところです。
(旅行総合研究所タビリス代表)