小田急ロマンスカーVSEは、流線型の真っ白な車体で人気の車両でしたが、2022年3月ダイヤ改正を機に定期運行を終了しました。
ただ、いまも団体列車としては現役で、たびたび旅行商品が販売されています。昨年12月には、親子向けの「VSEクリスマスツアー」があり、筆者も息子と参加してみました。
集合は小田急喜多見駅。案内されて、近くにある小田急の喜多見検車区を訪れると、一角にVSEが停車しています。検車区を見学し、そのまま乗車。ふだん一般旅客が利用できない引き込み線を走り、成城学園前から本線に入るという、レアな体験ができます。
車内ではビンゴ大会をしながら新松田へ。折り返して、相模大野から江ノ島線に入り、片瀬江ノ島に到着。ホーム1面をあけてツアー専用とする破格の対応で、運転台見学や演奏などのイベントが催されました。
朝8時に喜多見駅に集合し、解散は夕方16時すぎ。丸一日、VSEを堪能できるツアーで、レジャーとしても、お別れ乗車としても申し分のない内容でした。
近年、鉄道会社は、こうした鉄道ファン向けのツアーを増やしています。背景としては、新型コロナをきっかけにした経営難がありますが、長期的に見て人口減少が進むなか、さまざまな増収の取り組みをしなければならない、という理由もあるのでしょう。
鉄道は本来、ファン向けに運行されるものではなく、移動需要に対応する交通機関です。ただ、それだけでは先細りとなっていく現実があるなかで、ファンを対象にしたツアーが増えているわけです。なかでも親子向けのツアーは商品が多く、工夫の凝らされたものが目立ちます。
鉄道に末永く乗ってもらうには、小さい頃から鉄道に親しみを持ってもらうことが大事です。小田急は、子ども運賃を一律50円にするなど、ファミリーに優しい経営方針を掲げています。親子向けツアーも、そうした方針に沿うものなのでしょう。
今回のツアーも、参加者の多くは小学生の親子連れでした。スタッフの子どもへの対応は柔らかく、気持ちよく過ごせました。
子どもの頃に鉄道が好きだったからといって、大人になって利用するとは限りません。それでも、こうした取り組みが、鉄道に好意的な沿線住民を増やしていき、鉄道利用者の長期的な底上げにつながっていくにちがいありません。
(旅行総合研究所タビリス代表)