夕張鉄道は、函館本線野幌駅から室蘭本線栗山駅を経て夕張本町を結んでいた私鉄です。石炭輸送などを目的として敷設されましたが、炭鉱の閉山などを受け、1975年に全廃されました。代替として路線バスが運行されていて、新札幌ターミナルまで足を伸ばしています。新札幌駅から野幌駅を経て新夕張駅までを結ぶ夕鉄バス「新札夕線」です。しかし、この路線も、10月1日に廃止されることが決まりました。廃止される前、9月上旬に訪問してみました。
起点は新札幌のバスターミナル。最初は札幌市内の国道をひた走ります。野幌、江別を経て南幌までは住宅地を走る近郊路線。その先は乗客が少なくなり、ローカル路線バスの雰囲気が漂います。夕張市内に入ると乗客が戻り、ターミナルでは通学の高校生がどっと乗ってきて、活気にあふれます。進むにつれて車内の表情が刻々と変わる、興味深い路線でした。
夕張鉄道の廃線跡に沿って走るのも魅力です。バスの車窓から廃線跡がわかる部分もありますし、一部では廃線跡に敷かれた道路もルートに含まれます。「ここにいまも鉄道が走っていたら」と妄想する楽しさもあります。
夕張鉄道が国鉄だったら、野幌―南幌間は札幌の近郊路線として、それなりの輸送密度を保つことができていたでしょう。国鉄民営化後は学園都市線のように電化され、毎時3本くらいの列車が走っていたかもしれません。南幌―夕張間は利用者が少なそうですが、夕張の近くには三段式スイッチバックもあったので、残っていたら、鉄道名所として注目を集めていたに違いありません。
鉄道が失われ、その代替のバスも失われるとなれば、沿線自治体には厳しい話です。廃止の理由は乗務員不足や利用者の減少で、廃止されるのは新札夕線のほか2路線があります。
ただ、札幌近郊の新札幌―南幌間や、夕張の市内路線は残ります。少ない経営資源を、利用者の多い区間に集中しようということでしょう。とはいえ、乗務員不足は今後深刻化する可能性が高く、残された区間を将来にわたりバスで維持できるかは不透明です。
妄想を承知でいえば、大量輸送が可能な鉄道が、野幌―南幌間だけでも残っていればと惜しまれます。
失われた鉄道は戻りません。せめて、いま残っている路線は大切にしたいところです。
(旅行総合研究所タビリス代表)