前々回のコラムで、弘南鉄道大鰐線を紹介しました。廃止の議論もありましたが、どうやら存続することになりそうです。地元の青森県弘前市長が、路線維持に前向きな姿勢を表明しました。
ただ、その理由は気がかりでした。市長の説明によれば、バスやタクシーの運転士が不足しているなか、鉄道を廃止しても代替交通手段の確保が難しい、ということです。つまり、バス転換を検討したものの、運転士が見つからなさそうなので鉄道を存続する、という話。いわば消極的な鉄道維持です。
似たような理由で鉄道のローカル線を存続する事例は、昨年にもありました。石川県の北陸鉄道石川線です。設備の老朽化などで、維持困難と表明した事業者に対し、地元自治体が支援するかを議論し、存続が決まりました。決め手は、鉄道を廃止してバス転換をしたら、市内全域でさらなるバスの減便が起こるかもしれない、という懸念でした。バス運転士が不足しているのに、大量輸送が可能な鉄道を廃止することはできない、という判断です。
運転士不足による路線バスの減便は全国各地で生じています。あまりにも事例が多すぎて、もはやニュースバリューも小さくなり、大きく報じられることもなくなってきました。
しかし、バスの運転士不足が改善する兆しはありません。路線バスの運転士の多くは40~50代で、年を経るごとに減少する可能性のほうが高いでしょう。
鉄道でも運転士不足は起こり得ますし、現実に、地方鉄道では運転士不足が発生しています。国交省は、鉄道運転士の免許の取得可能年齢を20歳から18歳に引き下げました。鉄道の運転士不足に対応する施策といえます。
運転士不足が深刻化しても、鉄道には自動運転のハードルがバスより低いという強みがあります。すでに、JR九州は香椎線でレベル2.5という自動運転を開始しています。これは先頭に係員が乗務するものの、運転士でなくてもいい、という形です。将来的な運転士不足に備えた施策といえます。
バスでも自動運転が模索されていますが、専用軌道を持つ鉄道に比べると、そのハードルははるかに高いでしょう。
鉄道ローカル線の運営にはお金がかかりますが、一定の利用者がいるのであれば、人口減少時代において維持する価値は高い、ということのようです。
(旅行総合研究所タビリス代表)