CBREは10日、調査レポート「2021年のホテルマーケット展望-増加する需要と供給の中で勝ち残るホテル」を発表した。
訪日外客数の増加を受け外国人宿泊需要も増加しています。2018年の外国人延べ宿泊者数*1は対前年比11.2%増(約900万人泊増)の8,859万人泊となりました。一方、日本人は海外への旅行が増加したこともあり、日本国内での延べ宿泊者数は対前年比2.2%減(約900万人泊減)の4.2億人泊となりました。国内での日本人宿泊需要の減少分を、ほぼ外国人宿泊需要の増加分で埋め戻す結果となりました。
*1 延べ宿泊者数:各日の宿泊者数を足し合わせた数。仮に二人組の旅行者が7日間宿泊した場合は、2人×7日=14人となる。
インバウンド需要の拡大が今後も継続して見込まれることを背景に、全国各地でホテルの開業が相次いでいます。主要9都市における2019~2021年に開業予定のホテルの客室数も、この1年の間に約3万室から2.5倍の約8万室に増加しました。あらたに供給される客室数は2018年末時点の既存ストックの24%に相当します。既存ストックに対する供給客室数の割合を都市別に見ると、京都が最も高い51%、次いで大阪の32%、東京が24%と続く結果となりました。(Figure 1)
政府は訪日外客数の目標を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人と定めています。宿泊需要について、外国人は政府目標が達成されることを前提とし、また、日本人の宿泊需要については将来の人口減少を考慮して推計したところ、主要9都市でそれぞれ、2021年の必要客室数(=需要)が予想ストック(=供給)を下回る結果となりました。
今後、さらにストックが増加すれば、あらゆるホテルがインバウンド需要拡大の恩恵にあずかれるわけではなくなります。単純な価格競争を避け、誘客力の強いホテルを作るためには、より細やかな立地戦略、ターゲットとする客層に合わせたハードの変化といった差別化が鍵となってきます。また、CBREが把握している主要9都市の新規供給の87%は宿泊主体型*2のホテルとなり、フルサービスホテル*3は5%に過ぎないというデータがあります。不足しているアッパークラス以上のホテルや、多様化した旅行者のニーズに応えられるブティック・ライフスタイルホテルといったホテルカテゴリも、質の高い体験を得られるホテルとして誘客力を発揮することが期待されています。(Figure2)
*2 宿泊主体型ホテル:宿泊機能以外の付帯施設を限定、または最小限にした、宿泊を主体としたホテル及び宿泊に特化したホテル
*3 フルサービスホテル:レストラン、バンケット、フィットネス、スパ、ドアマン、ベルボーイ、コンシェルジュなどの多彩な施設とサービスを提供するホテル。その多くはアッパークラスに属する
国際観光の増加が世界的な潮流となっている中で、日本ではラグビーワールドカップ、東京オリンピック・パラリンピック、大阪・関西万博といった国際的祭典の開催や、統合型リゾートのオープンが見込まれるなど、これまで以上に観光需要を吸引する機会が巡ってきます。また、国内では働き方改革に伴って、余暇が増加することや、旅行をしながら仕事もするというワーケーションという形態が認められることで、観光需要を生み出す可能性があります。国内外の旅行者が多様化することで、旅行目的も多様化します。多様化する需要に合わせてホテルも絶えず変化をし続けることが、競争に勝ち残る鍵となります。
CBRE リサーチ アソシエイトディレクター五十嵐芳生(よしたか)は、次のように述べています。「ホテルの開業ラッシュが続いた都市の中には、競争原理が働くことで、ホテルによって優勝劣敗が分かれ始めているエリアもでてきている。誘客力の強いホテルを作るためには、よりきめ細やかな立地や客層に応じたマーケティング戦略の見直しが差別化の鍵となっていくだろう」